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風呂で見る古代ローマと日本
人類史上に輝く繁栄を誇った古代ローマ。そこには公共浴場があり、銭湯など風呂好きな日本人は深い関心を寄せてきた。
その興味をさらに掻き立てて、古代ローマへの親近感を一層高めてくれたのがヤマザキマリ氏による漫画『テルマエ・ロマエ』だった。
山梨県立美術館(山梨県甲府市賀川1-4-27)では2023年9月9日(土)から11月5日(日)まで開館45周年記念として「テルマエ展 お風呂でつながる古代ローマと日本」を開催する。
古代ローマと日本の入浴文化について、絵画、彫刻、考古遺物といった100件以上の映像、模型などで紹介する。
漫画『テルマエ・ロマエ』の主人公ルシウスが案内人としてパネルなどに登場する。またヤマザキマリ氏のトークショー等、関連イベントも!
ルシウスが浴場を通して日本とローマを行き来したように、それぞれの入浴文化を体感することのできる機会になるでしょう。
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〇序章「テルマエ/古代都市ローマと公共浴場」ーテルマエとは「熱い」という意味のギリシャ語「テルモス」に由来する。狭義には皇帝らによって建設された大規模公共浴場を、広義には古代ローマの版図内の公共浴場全体を指す。4世紀に記された資料によると、当時ローマ市内には大規模な公共浴場は11あり、小規模なものにいたっては856~951軒にのぼっていたという。ローマ市内のテルマエで今も地上に遺構がよく残っているのは、アッピア街道沿いに217年に建設されたカラカラ浴場と、ローマ市内で最大のディオクレティアヌス浴場(302年頃)。大規模なテルマエの運営には、水道の管理・維持に加え、大量の燃料と奴隷を必要とした。温泉地にしても、温泉の利用は続いたにせよ、浴場施設が維持されることはなかった。そのため古代ローマの風呂文化は中世には消え去ってしまった。
〇第1章「古代ローマ都市のくらし」ー帝政初期には、ごく一部の特権階級と、増加する「大衆」との格差はかつてないほどに広がった。下層民が住むのはインスラとよばれる高層の集合住宅で、住空間は極めて狭く、水道もなければ台所や風呂の設備もなかった。皇帝たちは大衆の不満を解消すべく、食糧の施与や見世物など娯楽の提供といった施策を行った。1世紀末~2世紀初頭の風刺詩人ユウェナリスは、これを「パンとサーカス」と呼んで皮肉った。テルマエも、大衆からの人気を得るのに大いに役立った。何人もの皇帝が、ローマ市に巨大なテルマエを建設した。庶民たちのくらしは特別な日の見世物と、毎日の仕事の後のテルマエによって彩られていた。
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〇第2章「古代ローマの浴場」ー公共の場にある浴場はローマ人の発明ではない。ルーツのひとつは水浴施設、もうひとつは医療行為として神域に設けられた入浴施設で、いずれも古代ギリシャに発している。しかし、それを驚くほどの規模へと発展させたのはローマ人だった。ローマ人にとって、テルマエは単に体を洗う場所というだけではなく、身体を動かし、汗を流し、多くの人と交流して、心身の健康を保つ場所だった。運動場やいくつもの部屋が付随していたのは、テルマエの複合娯楽施設としての性格を示している。また文化サロンのような側面もあった。トラヤヌス浴場やカラカラ浴場には図書館までもが併設されていた。
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〇第3章「テルマエと美術」ーローマの大規模なテルマエには、数多くの大理石彫刻も飾られていた。皇帝や浴場の建設者の肖像のほかに、神々の像や古代ギリシャの有名作品のコピーが、壁面に設けられたニッチや円柱の間の台座の上に並んでいた。
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〇第4章「日本の入浴文化」ー日本の入浴はおおまかに天然の温泉と人工的な施設で行うものとに分けられるだろう。古くから各地の温泉が重要な資源として地域の住民によって守られて利用されてきた。人工的な入浴施設は仏教の寺院内に作られ、汚れと穢れを清める場として広まっていった。江戸時代には町の中に湯屋が整備され、お湯につかるという現代にいたる入浴のスタイルが定着した。
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関連イベントのひとつとして、9月9日(土)の午後2時から3時半まで美術館向いの山梨県立文学館講堂で、ヤマザキマリ氏と山梨県立美術館長の青柳正規氏によるトークショーが開かれる。定員は500名。8月10日(木)23時59分まで申し込み受付中。詳細は同館ホームページ参照。
また、10月21日(土)の午後1時半より講堂にて映画「テルマエ・ロマエ」(2012年、108分)が上映される。定員は70名。要申込。
休館日は月曜日、ただし9月18日、10月9日は開館。9月19日(火)、10月10日(火)は休館。
開館時間は午前9時から午後5時まで(入館は午後4時半まで)。観覧料は一般1000円、大学生500円、高校生以下の児童・生徒は無料。
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