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世界から見た日本の人権

 英エセックス大学人権センターフェロー藤田早苗さんは、他の多くの国では利用可能な国際人権の制度が使えず、世界の多くの国では設置されている人権機関が存在しない日本の状況を次のように例えたーー「世界は電気がある生活をしているのに日本はろうそくの光で生活しているようなもの」。
 藤田さんは2024年12月7日(土)、渋谷区文化総合センター大和田で「世界から見た日本の人権」と題した講演を行った。
 主催は「住み続けられるまちづくりをめざす品川区民の会」。
 藤田さんは日本では人権は「思いやり」や「優しさ」と勘違いされているという。そして子ども食堂を例に挙げた。「本来、行政が貧困撲滅ということをやらなければいけないのに民間に丸投げして美しいことだとしている。メディアもメディアです。政府、行政が義務を果たしていないのに」。


 藤田さんによると、人間らしく生きるために不可欠なものはすべて人権なのだという。食糧への権利、居住の権利、健康への権利、教育への権利、職業選択の権利、移動の自由、情報、表現の自由、差別の禁止、拷問の禁止。
 「生まれてきた人間すべてに対して、その人が能力・可能性を発揮できるように、政府はそれを助ける義務がある。その助けを要求する権利が人権。人権は誰にでもある」と国連人権高等弁務官事務所は説明している。
 そして「人権を実現する義務は政府が負っています」と藤田さん。
 その義務を具体的に規定しているのが国際人権条約で、個別には「市民的・政治的権利に関する国際規約」「経済的、社会的、文化的権利に関する国際規約」「人種差別撤廃条約」「女子差別撤廃条約」「拷問禁止条約」「子どもの権利条約」「障害者の権利条約」といったもの。
 「日本はこれらの締約国で実施義務を負っている。これらの実施状況を監視しているのが国連人権機関」だという。

国連勧告には法的拘束力がない?
 今年10月、国連女子差別撤廃委員会が女子差別撤廃条約の審査で、夫婦別姓制度を導入するための民法改正、女性が国会議員に立候補する際の供託金を一時的に引き下げること、そして男系男子による皇位継承を定めた皇室典範の改正を勧告したばかり。
 藤田さんによると、委員からは「家父長的な固定観念」や「ジェンダーステレオタイプ」などへの質問や指摘があったという。
 一方で藤田さんが暮らすイギリスでは、広告で男の子は宇宙飛行士で女の子はバレリーナというような職業でのステレオタイプ、あるいは男性がくつろぐ間に女性が掃除をしていたりといったシナリオを使うことは法律で禁止されている。
 さて、国連の委員会からの勧告に対して日本政府は「一方的な声明で抗議せざるをえない」とか「個人の意見だ」として対応しない構えだ。
 また安倍晋三政権時代の2013年にはこういった「勧告には法的拘束力がないので従う義務はない」という閣議決定までしている。
 しかし、憲法98条2項は「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」という。

国内人権機関がない日本
 藤田さんは「大きな問題は日本に国内人権機関がないこと」で「パリ原則に基づいた独立した人権機関の設立が必要」だと話す。
 世界ではすでに118機関あるという。日本にはそれと同等を謳う機関はあっても法務省内にあるので独立性がない。
 人権侵害を受けた人が、国内の終審判決に不服が残る場合、そうした人権条約機関に直接訴えて救済を求めることが出来る。「つまり、最高裁の後があるということです」と藤田さんはいう。
 そのためには人権条約の「選択議定書」を批准する必要がある。欧州人権裁判所なども同様の制度を設けているので、「先進国でこの制度が使えないのは日本だけです」。

メディアは包括的に全体像を伝えているのか?
 藤田さんは日本のこうした状況についてメディアの責任は大きいと話す。  
 加えて、日本では人々がメディアをうのみにする傾向が強いという統計がある、という。
 藤田さんはいう。「ポイントは、きちんと包括的に全体像を伝えているのか。声なき人の声をきちんと伝えているかだと思います」。
 また、日本の「ロースクールでは国際人権が必須科目ではないので、そうしたことを知っている弁護士はほとんどいません」と話した。
 とにかく「本来の人権教育」が重要だと藤田さんは強調した。
 「国際基準の人権に関する知識が大切なのです。それによってなぜおかしいか、どうダメなのかが分かるからです」。
 そうでないと「社会にこびりついているいろいろなことによって分からなくなってしまいます」と藤田さんは話した。
  講演では途中、イギリスの子どもたちが人権と聞いて自由に発言しているビデオが流された それを見ると早くからの人権教育で子どもたちはすでに自分たちの権利に自覚的であることが分かり、日本とのギャップに驚かされる。日本の子どもで人権について何か言える子が果たしているだろうかと。

講演会場の風景


 2年前に出た藤田さんの著書「武器としての国際人権 日本の貧困・報道・差別」(集英社新書)が売れており、すでに7刷だ。
https://shinsho.shuieisha.co.jp/kikan/1146-h/
 藤田さんは毎年冬に帰国して日本各地で講演などを行っている。

 
 

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