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映画「五香宮の猫」を観た!

 とりわけ猫好きにはたまらない映画だ。思わず見入ってしまった。
 2024年10月19日(土)、映画「五香宮の猫」(2024年/日本/119分/監督・制作・撮影・編集:想田和弘、製作:柏木規与子)を東京渋谷のシアター・イメージフォーラムで観た。
 大阪の第七藝術劇場でも公開中。また、同25日(金)より岡山のシネマ・クレールほか全国順次公開される。
 昨今のテレビは、主に視聴率が取れるからという理由から、やたらと犬猫といった動物を登場させる番組が多い。
 しかし、それらが「感動の押し売り」をするかようで辟易させられるのとは対照的に、この映画はただその場に居合わせたかのように感じさせてくれ、穏やかで、静かで、心穏やかな時間が流れる作品だ。

海を見下ろす高台にある五香宮(C)2024 Laboratory X, Inc


 想田監督によると、2020年4月に映画「精神ゼロ」が日本で公開されて想田監督と柏木プロデューサーは二人が暮らしていたニューヨークから東京に来ていたが、ちょうどその時コロナの流行で緊急事態宣言が出て、空の便も止まって、帰れなくなってしまったという。
 柏木は「(岡山県の)牛窓がいいって(そこに行って)少しお休みをしようと思ったら、ずっといることになりました」と話す。
 二人は牛窓に2021年、移住した。

柏木規与子プロデューサーと想田和弘監督


 その牛窓の、海が見える高台にある五香宮(ごこうぐう)という神社に集まる多くの猫たちと地元住民たちを描いたのがこの映画だ。
 この映画を観て思ったのは「幸せというのは日常のささやかな時間やその中での取ることのない営みの中にこそあるのではないか」ということだ。
 都会ではせわしなく働いたり動き回ることが忙しいとして意味のあることのように思われたりするが、その実中身は空っぽなのではないかとも問いかけてきているように思えた。
 そして蝉の声、海の音、雷鳴など自然の音がよく聞こえる作品だが、自然や人間ということも猫を通して考えさせられる。

港町牛窓の光景(C)2024 Laboratory X, Inc


 よく人間と自然あるいは自然と人間という云い方がされるが、私はこれは必ずしも正しくないと思う。というのは人間は自然の一部であるからだ。
 科学技術の進歩によって、人間が自然をコントロール出来ると信じる人や、神が人間を自然を支配出来るように作られたと信じる人もいよう。
 しかし、人は自然の営みの中に生かされて、それゆえ古今東西、四季など自然の移ろいや農耕スケジュールに従って祭祀が行われ、自然あるいは神に感謝を捧げてきたのだろう。
 人は自分のことがかわいいので常に自分のことはケアして気を使っているだろう。そして大切なのは他人も自分と同じように自分のことを大切に思っていると想像することが出来るかだ。
 それが出来ないと他人への思いやりや共感は生まれないし、ましてや猫など他の生きとし生きるものへ愛情を注ぐことが出来ないだろう。
 頭でっかちな話をしてしまったが、この映画は結果としてモノを考えさせることになるものの、本来は心で見るべきものだと思う。

 突然の雷雨に雨宿り(C)2024 Laboratory X, Inc
釣りあげた魚をねだる猫たち(C)2024 Laboratory X, Inc

 住民たちも決してみなが猫好きなわけではない。映画にも出てくるが糞尿問題を指摘する人もいる。しかし、彼らは決定的な対決をすることもなくうまく共生する知恵を出している。
 それが理屈で黒白はっきりさせようとする近代(?)先進国のエリートたちとは違うようにみえる。
 曖昧さというのは一つの智恵である。
 そして時代の変遷は人間だけでなく猫にも及んでいる。

猫を抱く住民(C)2024 Laboratory X, Inc


 上映後の舞台挨拶で想田監督は「牛窓には40~50匹猫がいたと思いますが今は11匹になってしまった。避妊去勢手術をしているので新しく生まれてこない。よく考えるといずれいなくなってしまう」という。
 「しかし、社会が清潔になって管理可能になってゆくことは一見いいことに思えますが、イレギュラーなものが生きていく余地が失われていくのではないかと思うんです。これは世界的な現象のようです」。
 確かに野良猫は減っている。特に都会ではだ。かつてはよくいた野良犬が「危険で人間を脅かす存在」だとして街から次第に消えていったが、「同じことが猫にも起こっているのかなと思います」。
 映画では五香宮をはじめ牛窓に猫が増え過ぎるといけないので避妊去勢手術を受けさせるため猫たちを捕らえる場面がある。

避妊去勢手術を受けさせるためケージに入れられる(C)2024 Laboratory X, Inc


 柏木プロデューサーによると、広島のNPO「犬猫みなしご隊」が牛窓がある瀬戸内市のクラウドファンディングで資金を得て、年二回実施しているのだという。個人的に手術を受けさせる場合、瀬戸内市から助成金が出るが、家猫しかダメなのだそうで、その場合は赤穂市に行くのだという。

 想田監督は1970年、栃木県足利市に生まれた。東京大学文学部宗教学・宗教史学科卒。スクール・オブ・ビジュアルアーツ映画学科卒。事前のリサーチや台本、ナレーションやBGMを排した「観察映画」というジャンルを打ち立て、「五香宮の猫」はその10作目。

想田監督


 柏木プロデューサーは岡山県岡山市生まれ。本業は太極拳師範、ダンサー・振付家。世界的な伝統楊式太極拳マスターWilliam C.C.Chen老師に師事し、ニューヨーク市立大学演劇学科などで太極拳を教えた。牛窓は柏木の母親の故郷である。

柏木プロデューサー


 


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