映画「ラジオ下神白」を観た
音楽の力が一番発揮されるのはそれが人の記憶、人の人生、その人の生きた時代と結びついた時なのではないか。
いい音楽とは必ずしも技術的に優れているとは限らないと思う。人生や時代を想起させる時、その人の中でその音楽は最高のものとなる。
このドキュメンタリー映画は、そんな音楽の力で東京電力福島第一原発事故によって避難を余儀なくされている人たちと、彼ら彼女らを癒し、励ましている人たちとの交流を描いている。
「原発X音楽」映画である。そしてヒューマンストーリーだ。
被災者という言葉でひとくくりに出来ない、一人一人の違った歩みが音楽をきっかけとして浮き彫りにされる。
その映画「ラジオ下神白(しもかじろ)」(2023年/70分/小森はるか監督)を2025年1月6日(月)、シネマ・チュプキ・タバタ(東京都北区東田端2-8-4)で観た。
福島原発事故によって浪江、大熊、富岡町から避難してきた人たちが暮らしているいわき市にある福島県復興公営住宅・下神白団地が舞台である。
2016年から、まちの思い出と当時の思い出深い曲について話を聞いて、それをラジオ番組用のCDとして避難民一人一人に届けてきたプロジェクト「ラジオ下神白」を追ったドキュメンタリーだ。
そして2019年8月、「伴走型支援」バンドが結成されて、復興公営住宅の人たちからのリクエストがあった曲をみなの前で生演奏し、みなで歌った。同12月に開かれた「クリスマス歌声喫茶」でだ。
ある女性は「青い山脈」に記憶をよみがえらせ、ある男性はブラジルの女性といい仲になった日々を語り出し、ある女性は楽しそうに「宗衛門町ブルース」を歌うなどの場面には心打たれる。
撮影、編集も兼ねた小森監督はパンフレットでこう書いている「お茶のみをしながら、その方が教えてくれた想い出の曲をスマホから再生してみる。歌を口ずさみはじめたときに、ふっと人生のなかのある一場面へ、忘れられない記憶へとワープするみたいに語りがはじまるのだった」。。
「ふるさとの風景へ、嫁ぎ先での苦労した日々へ、残してきた自宅がいよいよ解体されてしまうさみしさへ、何カ所も避難先を移動していた頃の不安へ、そして今この部屋で感じていることへ」。
原発映画であるのに原発のことは語られない。しかし、原発事故によって過酷な避難生活を余儀なくされた人たちの声を拾い上げることであの悲劇を問わず語りに浮き彫りにしているのだと思う。
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