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「マティス 自由なフォルム」

 20世紀最大の巨匠の一人アンリ・マティス(1869-1954)の切り紙絵にフォーカスした「マティス 自由なフォルム」が2024年5月27日(月)まで国立新美術館(東京・六本木)で開催中だ。
 同2月13日(火)に開かれたプレス内覧会に足を運んだ。
 展示されているおよそ150点のうち、「90%以上がニース市のコレクションです」と国立新美術館の米田尚輝主任研究員は語った。

展覧会メインビジュアル


 マティスは後半生、色が塗られた紙をハサミで切り取り、それを紙に張り付ける技法「切り紙絵」に取り組んだ。
 「この頃のマティスの重要な関心事は、切り紙絵と筆によるデッサンでした」と米田主任研究員はいう。
 フランスのニース市マティス美術館に寄託されている(オルセー美術館蔵)切り紙絵の代表的作例である《ブルー・ヌードIV》が公開されている。米田主任研究員は「木炭によるデッサンの痕跡が見える」という。
 また、4.1X8.7メートルの大作《花と果実》が同展のためにフランスでの修復を経て日本で初公開されている。
 アメリカのブロディ夫妻からロサンゼルスの別荘の中庭に設置する巨大な装飾を注文されたマティスが、4つの案を制作したという。その中から選ばれたのがこの《花と果実》である。

アンリ・マティス《花と果実》1952-1953年 切り紙絵 ニース市マティス美術館蔵 Succession H. Matisse


 さらに、マティスが最晩年に建設に取り組んだ、芸術家人生の集大成ともいえるヴァンスのロザリオ礼拝堂にも着目し、建築から室内装飾、祭服に至るまで、マティスの至高の芸術を紹介。
 展示室内にヴァンスのロザリオ礼拝堂を体感できる空間がほぼ原寸大で再現されている。カズラといわれる神父様が着る上祭服など「儀式に使われる一式もあり、最後の”総合芸術”ともいえます」と米田主任研究員は話した。
 また「教会に入り込む光を24時間撮影して、それを計算して3分間に圧縮してプロジェクションで投影しています」(米田主任研究員)。ステンドグラスを通して床に映る「光の美しさ」が堪能できる。

再現されたヴァンスのロザリオ礼拝堂


 ニース市のクリスチャン・エストロジ市長は図録で次のように書いているーー「私たちのコレクションから東京で展示される多くの作品は、ニース市マティス美術館の本質を反映しています。それはマティスとその遺族たちが望んだように、画家、彫刻家、素描家、さらに版画家としての不屈の活動を理解できるコレクションなのです」。
 プレス内覧会にはフランスよりニース市担当副市長のロベール・ルー氏、ニース市マティス美術館のエムリック・ジュディ館長および今展覧会の監修者でマティス美術館前館長のクラディーヌ・グラモン氏も出席した。

〇「色彩の道」ーギュスターヴ・モローに学んだ後、マティスは南フランスのトゥールーズやコルシカ島に滞在し、光の表現を探求するスタイルに初めて取り組んだ。まばゆい光の輝きを放つこの地の気候との出会いが、解放された色彩を備える一連の絵画が生まれる契機となった。初期の重要なパリ時代の作品も紹介されている。
〇「アトリエ」ーアトリエはマティスにとって創造の現場であると同時に、絵画の中心的な主題の一つでもあった。また、彼は1938年に引っ越したニースの高台にあるオテル・レジナのアトリエに、花瓶、テキスタイル、家具調度など、多様な文化的起源をもつ膨大なオブジェを飾り、絵画の中でも頻繁に描いた。このセクションではアトリエで描かれた作品、あるいはアトリエを主題とした作品を中心に紹介している。

《ポリネシア、海》1946年にグアッシュで塗装、裁断された紙に基づく 製織:ボーヴェ国立製作所 Succession H. Matisse


〇「舞台装置から大型装飾へ」ー衣装デザイン、壁画、テキスタイルの領域におけるマティスの仕事を紹介する。マティスは1920年にパリのオペラ座で公開された舞台「ナイチンゲールの歌」の舞台装置と衣装デザインを手がけた。コスチュームは1990年代に忠実に再現されたもの。1930年にアメリカのバーンズ財団の装飾壁画の注文を受けたマティスは、15メートルを超える壁画にダンスを主題としてダイナミックに動く人物を描き、この仕事を契機に大型装飾に職業的使命を認めた。
〇「自由なフォルム」ー切り紙絵の技法を用いた作品を中心に紹介。マティスは切り紙絵を基にしたステンシルによる図版とテキストで構成される書物『ジャズ』(1947年刊行)を手がけた。1948年から始まるヴァンス礼拝堂の建設計画とともに、切り紙絵はますます自律的な表現方法としての地位を確立していく。

《ブルー・ヌードIV》を含む展示風景 Succession H. Matisse


〇「ヴァンスのロザリオ礼拝堂」ー1948年から1951年にかけて、マティスはヴァンスにあるドミニコ会の修道女のためのロザリオ礼拝堂の建設に専心する。マティスはこの礼拝堂の室内装飾から典礼用の調度品、そして典礼のさまざまな時期に対応する祭服にいたるまで、デザインのほとんどを指揮し、総合芸術作品として練り上げた。ステンドグラスの窓から透過する光は、3つの図像が黒で描かれた白い陶板の壁面や床面に、豊かな色彩が反映するように設計されている。

《黒色のカズラ(上祭服)のためのマケット(正面)》1950-1952年 Succession H. Matisse
再現されたヴァンスのロザリオ礼拝堂

 同じくモローを師としたジョルジュ・ルオーが重厚な作品を遺したのに対しマティスの作品は宗教的なものであっても一貫してポップで明るいことについて米田主任研究員は「端的にいってマティスは宗教にはそれほど関心がなかったように思います。礼拝堂の仕事を宗教建築としてではなく、芸術作品として捉えていたことからもうかがえるのではないでしょうか」。
 「また、画面が明るくなったのは南フランスの気候に起因すると思います。彼は北部の暗い街の出身でしたから」と述べた。

 安藤サクラさんが本展のアンバサダーと音声ガイドナビゲーターを務めている。「私にとってマティスは一番大好きな芸術家です」という。
 ロザリオ礼拝堂の再現展示について「普段、礼拝堂というと身構えてしまうのですが、ヴァンスのロザリオ礼拝堂に行った際、自分の気持ちや声明を軽やかに称えるような空間に感じて、自分にとって忘れられない特別な場所になりました」と安藤さん。
 「今日(再現展示を)拝見したら、言葉にするのは難しいのですが、素直に「凄いな~!」と思って。現地で感じた、心がほぐれるような感覚が再現展示でも感じることができて、東京でこの体験ができるのは素晴らしいと思いました・・・いろんな方にささる展示になっていると思います」。
 
 国立新美術館(東京都港区六本木7-22-2)の休館日は毎週火曜日。ただし、4月30日は開館。開館時間は午前10時から午後6時(毎週金・土曜日は午後8時まで開館。入場は閉館の30分前まで)。
 展覧会ホームページは https://matisse2024.jp
 問い合わせは050-5541-8600(ハローダイヤル)まで。



 

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