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映画「夢みる小学校」を観て

 日本の社会はいつの間にこんな風になってしまったのだろうか?
 政治家たちの体たらく、不祥事続きの企業、不満だらけで不幸せな顔をしたサラリーマンたち、笑顔が少ない子どもたち。
 塾通いで忙しいからか?。「いい学校に行って、いい会社に入れば幸せになれる」かのごとく、勉強にいそしむ子どもたち。
 でも聞きたい、あんな大人たちになりたいのですか?
 そうはいっても自分たちがそういう方程式で育ってきた体験から抜け出せない親たちはそれを子どもに強いている。でも、なぜ勉強するの?と子どもに聞かれてきちんと答えられる親がどれだけいるのだろう?

なんで勉強ってしなきゃいけないの?
 映画「男はつらいよ」の中で主人公の寅さんに妹さくらの息子満男が訊ねるー「何で勉強なんてしなきゃいけないんだろう?」。
 すると、小学校しか出ていない寅さんは答えるー「そうさなあ、勉強をしなかった人ってのはモノゴトを決めるのにサイコロを振って決める。でも学のある人ってのは筋道を立ててモノゴトを考えることができる。そういうことじゃないか。バカ、難しいこと聞くんじゃないよ」。
 寅さんほどの答えが出来る親ならまだましだろう。多分、多くは「成功」の方程式の一つとして「いい」学校目指しの説明をするのが関の山だろう。
 そう、学びが手段になってしまっている。いい学校に入るため。いい会社に入るため。資格をとるため。何かの手段としての学びなのだ。
 また、教育のあり方も疑問だ。日本に特徴的な記憶重視の詰込み型。変化はあっても基本は変わっていないようだ。「答え」を先生だけが最初から持っていて、それを生徒たちに「教えてあげる」というかたちだ。
 だから教えることが同じならば毎年毎年同じことを繰り返すだけでいいのだ、一回先生になって「答え」を暗記してしまえば。
 その映画を観終わってそんなことを思った。

「夢みる小学校 完結編」が誕生
 その映画とは、日本の教育に一石を投じた日本映画批評家大賞受賞作「夢みる小学校」の完結編だ。
 前作の劇場公開から3年が経ち、あの小学生たちは夢みる中学生になった。希望溢れるミライの教育ドキュメンタリーが完結した。
 激動のAI時代に対応するため、2020年度から教育指導要領の主題が「探求学習」に大きく舵を切った。ところがすでに30年前から、農業、料理、劇などを通した「体験学習」を実践している先進的な学校があるのだ。
 「きのくに子どもの村学園」(和歌山県橋本市)である。全国で5つの学校を運営しており、今回も取り上げられているのは「南アルプス子どもの村小中学校」(山梨県南アルプス市)。


 ヒット映画「いただきます」シリーズのオオタヴィン監督が密着取材し、2022年に公開された「夢みる小学校」は、全国で10万人を動員、教育界をはじめとして各方面で大きな話題となった。
 出演した小学生たちは中学3年生になった。新たに撮影した中学生パートを30分間追加・再編集した完全版が完成した。
 プロデューサー・監督・撮影はオオタ ヴィン。ナレーションは吉岡秀隆。 エンディング・テーマはザ・ブルーハーツの「夢」。
 2024年2月3日(土)、アップリンク吉祥寺での上映後、トークに臨んだオオタヴィン監督は完結編を作った理由を次のように話した。

「ちゃんとした大人」にならないのか?
 「前回は小学生がメインでした。それに対しておじさんが多かったのですが、「こんなことしていたらちゃんとした大人にならないよ」とずいぶんと言われました。でも彼ら彼女らが中学校に行ったのを見て、びっくりしました。はるかに予想を超えていたのです。こんなに立派になったんだと」。
 「これを観れば、これで大丈夫という人がいるのではないでしょうか」。


 筆者は日本の学校ってどこか軍隊のようじゃないかと感じることがあった。会社もそうだと感じることがあった。
 年功序列、肩書社会、我慢、全体主義、忖度、同調圧力・・・
 そんな中でみんな自分を押し殺して生きているのではないか。
 外国の人に「あなたのお仕事は?」と聞かれて「サラリーマンです」と答えたらきっと怪訝な顔をされるだろう。
 サラリーマンという職業はない。そう、ケーキ屋、おまわりさん、大工さん、肉屋さんなど、そういうのが仕事なのだ。
 しかも、日本のサラリーマンは「ゼネラリスト」という名のもとの「何でも屋」にされる。そのためにこの国の教育があるともいえる。
 だから職人は減っていく。むしろ職人は迷惑な面があるのだろう。会社で何かに特化した人がいると代わりがいない。誰でも置き換えられれば会社にとって都合がいい。でも本当にそれでいいのだろうか。
 この映画を観て、特に心打たれたのは「「自分は自分のままでいいんだよ」ということが分かった」という女の子の言葉だ。
 そして自分自身であるようになると、いわゆる発達障害のような症状はなくなっていくのだという。

自分が自分であるように
 多くの人は気づいてはいるのだろう。
 SMAPのヒット曲「世界に一つだけの花」で唄われた。
 「自分のままでいいんだよ。人と違っていてもいいんだよ」。
 さらには、この映画で描かれる子どもたちは学びを自然に行っている。必要があって学ぶ。そう、そば粉を水で溶く時の水の量を出すために必要な算数など、生きることと直結した学びである。
 漠然と、進学のため、就職のため、資格のために・・・というのでない。ましてや偏差値を上げるためでないのはいうまでもない。

 2024年2月3日(土)より吉祥寺アップリンク、9日(金)より長野上田映劇、10日(土)より大阪第七芸術劇場、名古屋シネマスコーレ、17日(土)より富山ほとり座、新潟シネ・ウインド、23日(金)より大分別府ブルーバード劇場、熊本DENKIKAN、佐賀シアター・シエマにて上映。
 いづれも映画「夢みる給食」と同時公開される。
 各劇場とも監督トークの予定も。
 詳細は各劇場ホームページまで。

 (一番上の写真の左はオオタヴィン監督)


 
 

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