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外苑開発で都に要請書

 日本イコモスの石川幹子理事は2024年10月24日(木)、都庁記者クラブで会見し、東京都の小池百合子知事に対して神宮外苑開発計画の見直し案をまとめた事業者に対して既に完了している手続きの全部または一部をやり直すよう勧告するよう求める要請書を発出したと明らかにした。
 東京都の環境影響評価(アセスメント)審議会は先日、事業者が9月に公表した計画の見直し案を受け入れた。それを受けて、三井不動産は記者団に対して早ければ樹木の伐採を10月中にも開始すると述べていた。
 「終わってすぐに伐採を始めるなんて、乱暴なプロセスだし、民主的な手続きに著しく反しています」と石川理事は批判した。

都知事への要請書を手にする石川理事


 要請書によると、同審議会では「十分な資料の提出が行われず、審議が公明正大に尽くされませんでした」。
 日本イコモスは「東京都環境影響評価条例第68条に基づき、変更案の環境影響評価書案の公示・縦覧・意見書・公聴会」を行うことを求めた。
 2023年9月7日にパリのイコモス本部が計画撤回を求める「ヘリテージ・アラート」を発出。
 今年に入ってからは日本弁護士連合会も同様の懸念を表明、さらには国連人権理事会が「大規模な開発計画における環境影響評価プロセスにおけるパブリックな協議の不十分さに対する深刻な懸念」を明らかにしていた。
 石川理事はこうした動きを指摘したうえで「日本イコモスが突然要請を出したわけではないのです」と述べた。
 さらに事業者は樹木医がイチョウの衰退を指摘していたにも関わらず「健全だ」とし続けたことを指摘して、「虚偽の報告」を禁じる同条例第91条に基づき小池知事が事業者に勧告を出すことが出来るという。
 とりわけ大事なのは中央部にある絵画館前の芝生広場だと石川理事はいう。「これは近代風景式庭園で、そこになぜテニスクラブを作らなければいけないのか。また、樹木を切ってしまうことにどうして人々はもっと怒らないのか」と石川理事は話した。

絵画館前芝生広場


 樹木を移殖してきて広場自体も狭くなるとされる。「文化的環境が破壊されようとしている。まさに危機に瀕しています」。
 審議会では芝生広場の図面が公表されず、審議に必須である客観的資料が提示されなかったことも問題だとした。

 さらに日本イコモスは次のような指摘をした。
 ●ただでさえ衰退しているイチョウについて温暖化に伴う熱環境の与える影響について科学的調査、評価が欠落している。開発によってヒートアイランド現象が生じると指摘されている。
 ●新設野球場の地下杭(40メートル)にたいする水循環の遮断に関する科学的調査、評価が欠落している。
 ●保存緑地の持続的維持に関わる日陰の評価が行われておらず、科学的根拠が欠落している。超高層ビルなどの建物建設によって生じる日陰だ。
 ●移植検討とされている秩父宮ラグビー場へのアプローチにある18本のイチョウについては、全く報告がなかったこと。

秩父宮ラグビー場アプローチの18本のイチョウ


 ●芝生広場は風致地区Aの区域だが、歴史的樹木が大量に伐採される。移殖木を優先し、現在生育している歴史的樹木を伐採することの根拠が示されなかった。風致地区では都市に残された水や緑などの貴重な自然環境を守るため、建築物や土地の利用に厳しい規制が適用されることになっている。
 ●人命の安全性を担保すべき、歩道橋を囲む広場の計画と幅員の検討に基づくシミュレーションが行われなかったこと。計画では歩道橋の幅が狭く、また大規模施設が建てられるため、人流が増す可能性が高い。
 「このまま何もなかったかのように樹木が伐採されていまうことがないように、英知を結集して何とか道を切り開いていきたい」と石川理事は力を込めて呼びかけた。

4列のイチョウ並木

 神宮外苑の再開発計画では、神宮球場と秩父宮ラグビー場の場所を入れ替えて建て替え、超高層ビル2棟を建設、絵画館前芝生広場に会員制テニスクラブを作るなどとなっている。
 これに対して、これらの開発によって100年超の多くの樹木が伐採されること、一つの群落としての神宮外苑の緑が破壊されることなどから大きな批判が巻き起こったことから、都は一旦、事業者に計画見直しを促した。
 それを受けて事業者ーー三井不動産、伊藤忠商事、日本スポーツ振興センター(JSC)、明治神宮ーーは都の要請からおよそ1年後の今年9月9日に見直し案を公表、樹木の伐採本数を減らすなどの変更を発表していた。

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