鎌田慧「ハンセン病とわたし」
6月22日は「らい予防法による障害者の名誉回復および追悼の日」だ。今年のその日、「国立ハンセン病資料館」(東京都東村山市青葉町4-1-13)で、ルポライターの鎌田慧さんが「ハンセン病とわたし」と題して講演を行ったのを聴講した。
まず、鎌田さんは冤罪事件について具体的例を挙げて話を進めた。
そのなかでハンセン病と関わりがあるのはいわゆる菊池事件。1951(昭和26)年8月1日、「菊池」と呼ばれる熊本県北部の地域において元役場職員男性の自宅に爆発物が投げ込まれて男性が負傷した。
同じ村に住む男性のFさんが逮捕された。ハンセン病患者だった。
「普通裁判は裁判所でやりますが、ハンセン病の場合、ハンセン病の施設内で裁判が行われたんです」と鎌田さん。
Fさんはまともな審議、弁護、証拠もないままに判決を受けた。
ハンセン病施設内の留置場に収容されるが、この判決に対して福岡高裁に控訴。しかし、家族恋しさなどから逃走してしまう。
Fさんが逃走中、爆発物を投げ込まれた男性が山中でめった刺しにされた状態で発見された。Fさんが疑われて「ピストルを使って倒したのです。触れたくなかったのか。それだけ酷い差別だった」。
一旦は自白するがその後は一貫して無実を主張していた。
特別法廷では消毒液ににおいがたちこめて、被告人以外は白い予防着を着て、裁判官や検察官は手にゴム手袋をはめて証拠物を扱い、調書をめくるのに火箸を用いていたという。
「死刑にしてすぐ殺してしまいました。差別です。まだ再審は開始されていません」と鎌田さんはいう。
結びついている冤罪、ハンセン病、被差別部落
さらに鎌田さんは被差別部落出身だというだけで犯人だとされて、でっち上げられた冤罪事件についても説明した。
「冤罪、ハンセン病、被差別部落は結びついている。解決できないのは民主主義が機能していないから。人殺しをするなって言っておきながら、国家が人を殺すのは認められている」。
今と比べるとかつては「民主主義の力があった。敗戦体験があって国家に殺されるのは民主主義ではないという意識があったのです」と日本の現状を憂いた。
「死刑制度が実質的にあるのは日本、韓国、ロシアといくつかの国ぐらい。米国も半分くらいの州は止めている。ほとんどの文明国は死刑制度を止めている。日本は全然止めようとしない。世論調査を行ってもおよそ8割の人が死刑を支持している」。
香川の財田川事件、埼玉の狭山事件などの冤罪事件についても鎌田さんは話をして、さらに袴田事件の無罪判決が9月26日に出ると、それが冤罪死刑判決がはれて無罪となる5人目になると述べた。
冤罪は差別を利用した権力犯罪
鎌田さんの講演終了後、冤罪犠牲者の会事務局の野島美香さんは「日本における冤罪の典型的な例が菊池事件です。自白するまでいつまでも拘留するいわゆる「人質司法」。元日産自動車のカルロス・ゴーンは逃げてしまった。これは虚偽の自白を生みやすい」と話す。
「また証拠が捏造される。裁判所は検察を信じてしまう」。
「冤罪というのは差別を利用した権力犯罪です」。
「Fさんが死刑執行されてから50回忌を境にしてもう一度(裁判を)やろうという運動が活発になって、国家賠償訴訟を起こしました。差別的な法廷は憲法違反だと主張しました」。
「2020年3月に判決が出て、賠償請求は認められなかったものの、特別法廷は憲法違反だという画期的司法判断が下ったのです。この判断を確定させたかったので控訴しませんでした」と野島さん。
野島さんは日本の再審制度はあまりにも酷いという。「救えるものも救えない。早急に改正してほしいと思っています」。
「冤罪は権力犯罪であって、こいれを救うのは民主主義社会の責務だと思います」と野島さんは強調した。
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