神宮外苑の都アセスに告ぐ
2024年10月21日(月)に神宮外苑再開発に関して事業者が公表した見直し案について東京都環境影響評価(アセスメント)審議会が開催されるのを前に日本イコモス国内委員会が同17日(木)に会見を開いた。
都庁で開かれた記者会見で、日本イコモスは「審議にあたりましては、環境影響評価の原則である「科学的検証」と「民主的手続き」を遵守され、国連人権委員会が「深刻な懸念」を示した「環境影響評価プロセスにおけるパブリックな協議の不十分さ」に対して真摯に対応されるよう要請」した。
樹木の大量伐採などに対して批判を受けたことから事業者は今年9月9日に開発計画の見直し案を公表したが、日本イコモスの石川幹子理事は「前のものよりさらに悪くなっていた」という。
「質でなく数にこだわり、外苑の歴史的意義についてはゼロ、人命に脅威を与えるような計画になってしまった。温暖化に伴う熱環境でイチョウが非常に衰退していることも考慮していない」。
三井不動産、伊藤忠商事、日本スポーツ振興センター、明治神宮は、伐採予定だった高木743本のうち124本の伐採を取りやめ、現在のラグビー場の場所に建て替える神宮球場に隣接するイチョウ並木との距離を当初より10メートル広げるといった新たな案を公表した。
これについて日本イコモスは数字自体にからくりがあるうえ、残した木の具体的保全策も示されていないと批判している。
昨年初め、同審議会はイチョウが「すべて健全である」とした評価書を受理したが、事業者側は昨年暮れの報告書で、5本のイチョウについて「衰弱が激しい」と報告、特に飲食店「シェイクシャック」前のイチョウは「最も危険な状況で、いつ上部枯死に至っても不思議でない」とした。
「事業者自身認めているのに、どうして審議会はイチョウの衰退を認めないままなのでしょうか」と石川理事は首をかしげる。
さらに「現状のままでは手当が不十分」だと指摘した。
また再開発で高層ビルが2棟建つことによってヒートアイランド現象が起き、日照に影響する可能性などを指摘。
「樹木は一本一本としてでなく、群落として重要なのです。今の計画では樹齢100年規模の樹木が全くなくなってしまう。樹林地は完全に破壊されてしまいます」と石川理事は述べ、貴重な樹木として具体的に高さが20メートルほどになるケヤキや100年を超える白樫などを挙げた。
神宮外苑は、国民の献金、献木、勤労奉仕によってつくりだされた文化的遺産だが、それを象徴するものが絵画館前に広がる芝生広場(冒頭の写真:2024年10月16日筆者撮影)だが、再開発によって「完膚なきまでに破壊される」と懸念している。
芝生広場には会員制テニスコートが作られる計画だ。
「ここは「風致地区A」であるにもかかわらず調査もされておらず、理屈が通っていません」と石川理事は話す。
風致地区では都市に残された水や緑などの貴重な自然環境を守るため、建築物や土地の利用に厳しい規制が適用されることになっている。
途中から会見に加わった環境アセスメントの専門家である原科(はらしな)幸彦・千葉商科大学学長は今年5月に国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会が、この神宮外苑の再開発は人権に悪影響を及ぼす可能性があると指摘したことに言及した。
都市公園の開発は次の2点で人権にかかわるという。一つは生活の質の観点から。もう一つは、人々の意見が適切に計画に反映されたかということ。
「都市公園の価値は先進国では認められていますが、日本の企業社会においてはそうでもない。都市計画公園について記述が削除されたが、パブリックの声が反映されていない。国連人権理事会はここを問題視しているのです」と原科・千葉商科大学学長。
その意味で、日本イコモスもパブリックな存在だが、その提言は他のステークホルダーの意見同様、ほとんど無視されてきたし、また住民説明会も極めて限定した形でしか開催されていない。
日本イコモスの、パリにある上部団体イコモスは計画撤回を求める「ヘリテージ・アラート」を発出している。
「これは最終通告」だという。
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