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多くの友人に助けられ:リンゴ
「バナナ」(banana)という言葉は時に差別的、侮蔑的な意味が込められる。
1994年に発表されたビートルズの『ライブ・アット・ザ・BBC』の二枚目のCDのトラック3は「Have a banana!」とタイトルがつけられているが、これは司会者が「リンゴ、バナナだよ、うけとって!」(Here Ringo, have a banana, catch!)とリンゴ・スターをからかって繰りだした軽口が収録されたものである。
おそらく、司会者は悪意なく、「バナナ」が鼻の大きい人のことを指すこともあり、鼻が大きいリンゴをからかっての冗談だったのだろう。
しかし、2013年に出たこのアルバムのリマスター盤では、このバナナ発言は削除された。
「バナナ」は男性器を意味することもあるし、「バナナ共和国」(banana republic)といえば、政情不安な中南米の小国を揶揄する言葉としても知られている。
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2014年春には、サッカーのスペイン1部リーグ、バルセロナのブラジル代表DFアウベスが、敵地で行われたビリャレアル戦で観客からバナナを投げ込まれる人種差別行為を受けた。
黒人選手をサル扱いする悪質な差別行為に対して、アウベスは皮をむいて食べてからプレーを続行するという「大人の対応」をしたのである。
このバナナを投げ込んだ観客に対し、ビリャレアルは年間入場券の没収とホームスタジアムへの無期限の入場禁止処分を科すと発表した。
その後も、イタリアのサッカー1部リーグ(セリエA)や日本のサッカーJリーグでもバナナによる人種差別行為が相次いだ。
リンゴに対するバナナ発言が削除された背景には、人種差別に対してより厳しく臨もうという世界の潮流があるのだろう。
そんなからかいをうけたリンゴだが、彼ほど多くの友人に恵まれ、彼らのサポートを受けて活動を続けているアーティストも珍しい。
ビートルズでの活動中は、個性・才能豊かな他の3人のビートルたちージョージ・ハリスン、ジョン・レノン、ポール・マッカートニーーとの間で接着剤的な役割を果たし、解散後も彼らと交流しいくつもの曲を生み出した。
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ビートルズ時代にリンゴがボーカルをとった代表曲の一つに「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」がある。
「友人たちからちょっとした助けを受けながら」とリンゴが唄う、まさに彼の今日にまで至るテーマのような曲だ。
解散後も「ビートルズ物語’70」という作品を書いた。これは町に行ったら他の3人に会いたいなというリンゴらしいほのぼのとした歌だ。
73年リリースの自身の名前を冠した『リンゴ』には他の3人が(一緒になることはなかったが)参加した。
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リンゴも順風満帆だったわけではない。80年代にはアルコール依存症に陥り、治療を余儀なくされたこともある。
心身の健康を取り戻したリンゴは、友人たちに声をかけバンドを組み、本格的な音楽活動に復帰する。メンバーを入れ替えながら89年から続いている「リンゴ・スター・アンド・ヒズ・オール・スター・バンド」である。
第一期のオール・スター・バンドにはザ・バンドのレヴォン・ヘルムとリック・ダンコ、イーグルスのジョー・ウォルシュ、ビリー・プレストンやドクター・ジョンなどが参加。
同年秋には元ビートルズのメンバーとしては66年の日本公演以来初めてとなる日本でのコンサートを日本武道館などで行った。95年にもザ・フーのジョン・エントウィッスルらを従え、日本ツアーを成功させたのである。
リンゴは2013年、2016年、2019年にも来日公演を行った。
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それぞれ単独でもコンサートを開けるような大物アーチストを従える。
リンゴの主張は一貫しており明快だ。「ピース・アンド・ラブ」である。
コンサートの間に何度もピースサインをかざし、エンディングはジョン・レノンのメッセージソングである「平和をわれらに」(Give peace a chance)の合唱が定番となっている。