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映画「水平線」を観た

 福島で働く散骨師ー遺骨を海に撒くことを生業にしている人ーを主人公とした映画「水平線」(2023年:119分:小林且弥監督)を2024年5月16日(木)、「Cinema Chupki Tabata(シネマ チュプキ タバタ:東京都北区東田端2-8-4)で観た。
 福島県のとある港町。震災で妻を失った井口真吾(ピエール瀧)は、個人で散骨業を営みながら一人娘と暮らす日々。ある日、彼のもとに持ち込まれた遺骨は、かつて世間を賑わせた通り魔殺人事件の犯人のものだった。
 苦しい選択を迫られるなか、真吾が下した決断はーー。

 小林且弥(こばやしかつや)初監督作品だ。
 そうとは思えないほど繊細かつ深みのある作品に仕上がっていると思う。

 殺人犯の遺骨を海に撒くことの是非が井口に突き付けられる。
 井口は人間は死んだらただの骨という。
 確かにそうだ。骨に善人も悪人もない。ただのモノだ。
 しかし、生きている人がそれを許さない。
 もちろん、震災・津波で行方不明になった家族の生きた証(あかし)としてわずかでもいいから遺骨などを求める人の気持ちは尊いものだ。
 そう、その気持ちがモノをモノでなくする。
 井口が言った。大切なのは「こころ」だと。
 そう、人間は身体と心からなっている。
 死んだら身体というモノは失われる。
 では、心ってどうなるのか。誰にも分からない。

 お墓参りに行かなければならないという人がよくいる。
 でも、「ねばならない」ってことはないと思う。
 それは生きている人の「気持ち」であって死んだ人のためではない。
 一番大切なのは、井口がいうように「こころ」だ。お墓に行こうと行くまいと、常に死者をこの世で思ってあげることが大切なのだと思う。
 お葬式もそうだ。よくいわれるのはお葬式というのは死んだ人のためにやるのではなく、生きている人のためにやるものだと。葬式をやろうがやるまいが、死者を思う気持ちがあるかどうかが大切なのだ。

 風評被害と人はいう。この映画でも遺骨を海に撒くことはもちろん、殺人犯の遺骨を海に撒いたりしたらなおさら風評被害で魚が売れなくなるという。そして井口が漁師から責められるのだ。
 風評って何だ。深刻な原発事故が起きた福島。違う場所で獲れた魚と福島の魚が並んでいたらあなたはどうするのか。
 大丈夫だと思う人、多少寿命に影響してもいいと思う人。でも自分の子どもや孫に食べさせるのか。それは必ずしも風評ではない。健康やいのちが関わっていることだ。もちろん何も問題がなければいいのだが・・・

 そしてこの映画の一種の狂言回しとして「一介のジャーナリスト」とやらが登場する。醜い「ジャーナリスト」だ。
 散骨屋が殺人犯の遺骨をどうするかを問い詰める。
 被災者でもない「ジャーナリスト」がそうする理由を問われていう「一介のジャーナリストとして震災を風化させないためだ」と。
 傲慢だ。
 震災を風化させまいと努めている真のジャーナリストはいると思う。
 その人たちと、映画に出てくるような自称「ジャーナリスト」とやらを分け隔てるものって何だろうか。
 小林監督が初めて役者をやった作品は2011年ーそう震災の年ーの3.11の地元紙「河北新報」の一日を追ったドラマだった。
 そこで描かれたのは本物のジャーナリストたちだったろう。
 その小林監督がどうして一転して下世話な似非ジャーナリストを描いたのか。これまでに何かあったのだろうか。
 確かにマスコミはいまや「マスゴミ」とまでいわれるようにメディアの劣化が激しい。また〇〇ジャーナリストがそこいら中にいるようになってジャーナリストという肩書が恥ずかしいものになったような気さえする。
 で、小林監督に何かあったのか。

 上映前に小林監督は挨拶に立った。
 「この話はもともとは舞台だったんです。1本プロットを作りましたがコロナなどがあってダメになった。でも一年間、福島に通って関わった人たちの声を映画として一つ何か表現出来ないかと。個人的であるがゆえに諦められなかったんです」。
 20年くらい役者をやった後に監督をやった小林氏だが「監督をやってみると決めることの重要さがあって、潤沢に予算があるわけでなく、12日間で撮ったんです。本当は幸せになるためにやってるんですが、幸せじゃないことが生まれてきたんです」。
 「ぼくは役者だったんで空気を作るのはうまい。何かスタッフや役者さんたちに恵まれて、みんなもう一回やりましょうって言ってくれました」。
 この後どうするかを問われて、小林監督は「商業映画には興味ありません。あくまで日の当たらないところに光を当てるのが映画だと思っています。これを撮りたいと思わないと動けないし、2、3年かかるかもしれないけれど、それまで心の炎が消えない題材じゃないと撮れないと思うんです。じっくり向き合えるものを撮りたいと思います」と述べた。
 また今回のようなミニシアターでの上映について、「映画を作るのとミニシアターの在り方とは似ていると思います。この文化を絶やしてはいけません」と小林監督は締めくくった。

 最後に、ピエール瀧が見事だった。素晴らしかった。

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