言ってくれる人の気持ちなんて考えたこともなかった。
大学を卒業後、
初めて働いたのは調剤薬局だった。
メンタルのこともあり、国試に受かってから就職先を探そうと思っていた私が、薬局実習でお世話になったところで
「同じような症状の方に寄り添うことができると思う。一緒に働きませんか。」と声をかけてくれた薬局だった。
今思うと、本当によくしてもらった。
私の状態を考えてくれて
いくつか店舗のある薬局だったけれど、
実習でお世話になった店舗に配属してくれたり、
病院に通えるようにシフトを調節してくれたり、
感情の波もあったから扱いづらかったと思うのに皆、優しく接してくれた。
私が入社して3か月になる頃、
一人のパートさんが店舗に配属された。
30歳前半くらいの女性で、
一言でいうと、仕事ができる人だった。
薬や病気に対する知識はもちろんのこと、
彼女は上司に対しても、おかしいことはおかしいと言い、とてもまっすぐで、薬剤師の仕事に誇りと信念を持っているのが感じられた。
私に対しても、
「尿酸値の基準値って男性と女性で違うの、
なんでかわかる?」
「この薬歴だったら、書く意味がない」
「ちゃんと自分で考えて仕事しないと、
後で困るよ」
と、当時の私にはちょっとしんどい言葉が飛んできて、気づけば、次は何を言われるんだろうとビクビクしている自分がいた。
そんなある日、
彼女が私にかけてくれた言葉がある。
「片手を怪我してると思ってごらん。それでも、反対の手で出来ることはあるよ。何もできないってしてたら、皆、離れていっちゃうよ。」
「新人のあなたが、私と同じようにできたら、私の今までの時間なんだったんだってなるでしょ」
「でも、あなたが一番新しい知識を学んできているんだから。そこは自信もっていいんだよ」
彼女も私の病状は知っていた。
私が彼女に対しておびえていたことも
私が「皆みたいにできない」ってもがいていたことも 気づいていたんだと思う。
その後、一人暮らしの私を気遣って
彼女が自宅に私を招待してくれた。
かわいいお子さんたちも一緒に迎えてくれて
美味しいごはんをごちそうになった。
私はとても緊張していたけれど、
その時の彼女は少女みたいに笑う、とてもかわいい人だった。
しばらくして、
彼女は新店に異動になり
それから、数年後、
ご主人の転勤に伴い、彼女は薬局を辞めた。
異動前に「頑張ってね」と声をかけてくれた。
その時に『お世話になりました』とご挨拶はしたと思うが、彼女が辞める前に改めてきちんとご挨拶できなかったこと。
それが、私の心残りである。
彼女が新人の私にかけてくれた言葉たちのありがたさがわかったから。
私の母が感情的に怒る人だったから、
他の人から注意される=嫌われると
怖がっていた私。
でも、そうではないと教えてもらった。
「その人がどうでもいい人だったら言わない。
良くなってほしいから言うんだよ。」
「言わなくていいなら、そのほうが楽。
言うほうが 大変だったりするんだよ。」
そんな想いがあることを初めて知った。
そして、
彼女が当時の私に対して厳しく言ってくれたのは、私がちゃんと成長できるようにという優しさが込められていたんだ。ってようやく気付いたのだ。
言われることばかりにおびえていた私。
言ってくれる人の気持ちなんて考えたことがなかった。
ただ、ただ、今は感謝しかない。
彼女のおかげで、指示待ちではなく、どうすればいいのか自分で考えて動けるようになったし、薬歴の記載も次に活かせるような形で書けるようになったのだから。
ありがとうございます。
あの時、あなたが言ってくれたおかげで、
今も仕事を続けられています。