何もない場所
「こんな何もない場所で一生を終えるのは嫌だ」
今しかないと考え、私は就職と同時に家を出た。
上京して一人暮らしを前に、これからの生活に弥立つ。
都会には何でも揃っている。山や田畑しかない田舎で生活するのだけは御免だった。
『秋になってきたよ、見て』
あれから7年。これといって何もないが、私は未だに都会にしがみついている。
なかなか帰省しない私に、長野の母から写真が送られてきた。
実家の近くの田んぼの写真だ。本当に何でもない、ただの田んぼ。
田んぼはすっかり黄金色に染まっていた。頭を垂れる稲穂が風になびいては、スズメやカラスを誘惑する。それを制する、カカシに目玉に空気砲。
母が撮る写真は相変わらず下手くそだ。でも、それでも、情景が脳裏によみがえってくるから不思議だ。
よく遠くから田園の稲穂を眺めては、あの黄金の絨毯に、飛び込みたいと思ったものだ。
──ああ、そうか。
何もない場所なんてないのか。
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