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落語日記 新境地を見せてくれた遊かりさん

三遊亭遊かり独演会 vol.5
12月13日 江戸東京博物館小ホール
遊かりさん自ら主催されている独演会が5回目の開催となった。第1回よりお邪魔している。コロナ禍の影響で、客席数を60名限定にして、収録後に配信も行うハイブリッドスタイル。私は前回は配信で拝見したので、会場での鑑賞は久しぶり。
コロナ感染の終息が見えないなか、主催者として遊かりさんもこの時期の開催に色々と悩まれたようだ。会場の江戸東京博物館が都の施設で感染症対策がきっちりしていることを考慮し、指定席にして一席飛ばしで密にならないような客席にして開催された。客席は、ほぼ満員。
今回のゲストは、念願だった憧れの大先輩の立川談幸師匠。遊かりさんのブログによると「背中を追っかけて行きたい先輩」「この会で、私が「いつかこうなりたいなぁ!」と思う師匠方を聴いて頂き、遊かりの落語が育って行くのを見守って頂けましたら幸いです。」とある。それぐらい好きな大先輩の胸を借りて、遊かりさんもより張り切っての独演会となった。

立川幸吾「恋根問」
開口一番は前座さん。談幸師匠のお弟子さん。
落語協会ではあまり聴けない演目。モテる方法を伝授してもらう噺。なかなか良い咽を聴かせてくれた。

三遊亭遊かり「反対俥」
晴れやかな表情で登場。ご贔屓さんで一杯の客席は、初っ端から盛り上がる。
まずは、ゲストの談幸師匠のお話。前座時代、楽屋で談幸師匠の着付けを手伝っていると、良い匂いがした。そんなエピソードで、談幸師匠に対する憧れを語る。実は立川流が好きと告白。
今日はネタ下しを2本と話され、まずその1本目となる。本編は、最初の爺さんの俥夫から遊かり流ジェットコースター落語。勢いある流れのなかで、細かいクスグリが繰り出されていく。遊かりさんが実際に最近訪れた伊勢が終着地という下げ。

三遊亭遊かり「七段目」
いったん下がって、着替えて再登場。一席目から息の上がる噺をしてしまったと、まだ息が弾んでいる様子。
ひと呼吸おくためか、反対俥のエピソードを語る。前座時代に遊雀師匠より稽古を付けてもらった演目。上げてもらってから9年目で、やっと初披露というそんなネタ下し。噺によって、出来る時期、出来る年齢があるとのお考え。やっと反対俥の機が熟したようだ。

遊かりさんの趣味の話。園芸好きで、ユーカリを育てている。枯らしてしまい、現在は二代目とのこと。それから、大好きな歌舞伎の話。中学生のときに祖父に連れて行ってもらって以来、歌舞伎にハマったそう。初めて観た舞台で出会った玉三郎。この世の者とは思えない、という感動があったようだ。そんな趣味の話から、オタクの噺をしますと宣言して本編へ。

お馴染みの芝居噺だか、遊かりさんでは初めて。11月21日に「遊三を聴く会」でネタ出しで披露されているので、この日のネタ下ろしはトリの一席のようだ。
歌舞伎大好き、元々役者志望の遊かりさんにとって、素人の真似事ながら芝居の場面を再現する噺は好きな演目に違いない。
そして、見せ場はこの若旦那と定吉の芝居の真似事の場面。ここでは鳴り物音曲が入るだけでなく、舞台背景が照明によって赤くなるという演出。演劇的な舞台演出で、落語ではあまりない画期的なもの。
そんな舞台効果もあってか、この場面は二人の真似事を見ているようではなく、遊かりさん自身が芝居を演じているように見える。素人芝居というより、役者の演技をリアルに再現しているように見える。ずっと憧れている歌舞伎をご自身の独演会で再現できて、本当に楽しそうな遊かりさん。芝居狂いは若旦那と定吉の二人ではなく、実は遊かりさん自身、歌舞伎オタクは遊かりさん自身。見事な歌舞伎の舞台を再現することで、それを証明してみせた。そんな七段目だった。

仲入り

立川談幸「二番煎じ」ゲスト
落ち着いた表情で登場。早速、遊かりさんの話をいじる。良い匂いと言われ、今日はその言葉を聞けて満足です。
今の落語界には女流が多くなった。落語家という職業は、元々は男性だけが行うものだった。だから女流で本物はなかなかいない。色々とやってみるのが良い。修行で大切なのは気付き、必ず自分で気付く瞬間がある。そんな女流の後輩への温かいお言葉、遊かりさんへのエールだ。
ご自身のお話は、内弟子として二年半修行した日々の談志師匠の思い出。普段は食事の支度は談幸師匠が行うが、たまに談志師匠が食事を作ることがあり、そのエピソードも楽しいもの。
マクラの最後で聴かせてくれた談幸師匠の芸論のような小噺がある。名人の間についてだ。名人は演者も我慢するが、客も我慢させる。この観客の我慢に勝てないといけない。なるほど、感心する小噺。

江戸の火事や火消事情の話へ移る。町火消いろは四十八組、組名に「ひへろん」の各文字は使われなかった。そこから本編へ。番太がけっこういい加減だったという話が上手く本編へ繋がる。
寒い夜を舞台に、旦那衆の大騒ぎの様子が楽しい。登場人物たちの描写の細かさが、リアリティを産む。寒さ、熱燗や猪鍋の熱さ、美味しさ。思わず、涎が出そうだ。
番小屋での宴会では、余興を披露する場面がある型。手拭いと扇子を使って、空中を漂う手拭いという手妻を披露。馬鹿々々しいけど、楽しい雰囲気が伝わってくる。
前半のマクラでのお話しと共に、本編でも端正で本寸法の一席を披露することで、遊かりさんへ先輩芸人としての声援を送っていたように感じた談幸師匠だった。

三遊亭遊かり「大工調べ(序)」
登場早々、鍋を食べに行きますかと、談幸師匠の余韻に浸る遊かりさん。談幸師匠のメッセージはしっかりと受け取ったに違いない。
最後の一席、ということは、本日のネタ下ろし2本目。この日はネタ出し無しなので、何に挑戦するのかも楽しみ。
江戸の職人は、火事でも仕事になる。江戸の町は再建が早い。そんな江戸っ子の職人をめぐる話のマクラを振って本編へ。登場人物のキャラが交錯し、結構難しいだろう演目への挑戦だ。
遊かりさんは、細かいクスグリを挟むのが得意だが、この一席は定型を外すことはなく、手本に忠実のような一席だった。本編は、奉行所に駆けこむ前のところまで。

終わってからの私の感想だが、この日の三席は、大きく二つのグループに分けられると感じた。それは、一席目の反対俥だけの一の組と、二席目の七段目と三席目の大工調べの二演目の二の組だ。
一の組の噺は、いつもの遊かりさんの高座と同じようだ。筋書きにそって登場人物が自由奔放に遊んでいる。セリフは粗削りだが、流れを重視しスピード感にあふれるもの。オリジナルなクスグリも多く登場。
それに対して二の組の噺は、登場人物のセリフによって物語が丁寧に進行していく。セリフが明瞭で丁寧に語られる。定型的なセリフを大切に扱う。オリジナルなクスグリは少ない。そんな違いを感じたのだ。
七段目は芝居場面を挿入するので、定型さが重視される噺となるのは必然だろう。大工調べが定型的だったのは、ネタ下ろしなのでまずは基本形からということだったのだろうか。この辺りは、次に大工調べを聴くときの楽しみとしよう。
一の組と二の組は、演出も対照的である。遊かりさんが二の組で見せてくれた表現は、私はおそらく初めて拝見したものだと思う。
今後、芸を磨いていくうえで、一の組と二の組のイイトコ取りや融合があれば、遊かりさんの芸風にとっては、プラスになるような気がしている。この日は、遊かりさんの多方面の顔を見せてくれた実験的な会でもあったと思う。独演会ならではで、新境地の演目に挑戦された遊かりさんだった。

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