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落語日記 真打昇進を目前に控えた、けい木さんの勉強会
第8回 けい木の朝活
12月15日 アートスペース兜座
来春3月下席から真打に昇進する林家けい木さんが、隔月で勉強会を開催されている。真打を目前にして、この勉強会では主任ネタをネタ出しで挑戦。日曜日の午前中に開催するので、会の名称は「けい木の朝活」。
この会場は初訪問。最寄り駅は茅場町か日本橋、証券取引所のある日本橋兜町にあるので、アートスペース兜座という。和室に高座が設えられ、続きの洋室が観客席、こじんまりとした貸会場。どの席からも、高座は近くて観やすい。
この回で挑戦される演目は、暮れの時期に合わせた「芝浜」。本年最後の開催となるが、来年は3月から披露興行が始まり、この会の次回の予定は未定だそうだ。その代わり、同期で真打に昇進する仲良しの柳家吉緑さんと二人会「真打までのラストスパート」を毎週開催するという力の入れよう。なかなかに張り切っているけい木さん。
受付もけい木さんご自身が担当。披露興行のチケットやオリジナルTシャツも受付で販売。昇進のお披露目興行が近づいていることを感じさせる。
林家けい木「粗忽長屋」
出囃子は、なぜか圓太郎囃子。彦六一門の大先輩のオリジナル曲。圓太郎師匠以外の高座でもたまに流れる、なかなかに人気の出囃子。
ただいま、お披露目の絶賛準備中で大忙しのけい木さん。年末年始は初席もあるし、関連する業者も休業に入る時期で、色々と大変らしい。そんな日常から、仲良しの先輩の三遊亭鬼丸師匠、後輩の春風亭一刀さん、そして同期の吉緑さんなど、仲間との交流の話。鬼丸師匠との飲み会で盛り上がり、落語家って何だ、そんな大喜利のような問答の話は、結構真面目な落語家論。趣味を仕事にして、飲み会などで楽しく生活している落語家の不思議な生態を自虐的に語る。
この日は急いで高座に上がったのは訳がある、それは足袋を忘れたから。そんなご自身の粗忽ぶりを振ってから、粗忽者の噺へ。
本編は、定番の筋書に沿って不思議なキャラを丁寧に描くけい木さん。テンポ良いリズムで、寄席サイズを感じさせる長さ。で、下げになると思っていると、定番の下げが無く、その後の場面が続く。初めて聴く型なので、ちょっとした驚き。長屋に戻った八五郎と熊は、死んだはずの熊の弔いを行う。この弔い葬儀に参列した頭が死体を見て、知り合いだと勘違いする。そんなはずはない、死体は熊だと言い張る八五郎たちに、頭の思わぬ発言が下げとなる。
ネットで調べると林家たい平師匠が工夫した改作のようだ。粗忽者が八五郎と熊の二人だけではないという意外性、そして下げとしても良く出来ている。この改作部分も、けい木さんはしっかりと自分のものとしている。
林家けい木「ぐつぐつ」
一度下がって、二席目の登場。マクラは、人との出会いの不思議さの話から。以前の話で、けい木さんが地元小川町へ向かう途中の電車内で、座席の空席が広がっていたので、そこで落語会のチラシを整理していた。そこで、居合わせた乗客から落語家さんですか、と声を掛けられた。そして訊いてみると、その乗客は知り合いの親族と判明。そんなご縁で、この日も会に来場されている。贔屓となるご縁や切っ掛けは色々で、まさに合縁奇縁。
そして、現代を舞台とする噺をします宣言で本編に入る。そこで始まったのは、柳家小ゑん師匠作のお馴染みの新作。多くの落語家が手掛けている名作。
この噺は、おでんの屋台が舞台なので、店主と客、鍋の中の擬人化されたおでん種たちと
登場人物が多い。おでん種の雑多なキャラの特徴を見事に描写し演じ分けている。おでん種が擬人化され、その食品の特徴を活かした人格になっているのが可笑しい。おでん種たちが鍋の中で、こんなことを考えながら調理され、仲間同士でこんな会話をしているのだろうと納得させる性格の状況の設定。これも、そのキャラの特徴を掴む技量が必要。けい木さんは、見事にその技量を発揮して見せた。
仲入り
林家けい木「芝浜」
そして、三席目はネタ出しで芝浜。来春に真打昇進を控えたけい木さん、そのときまでに芝浜を掛ける機会はそう多く残されていない。披露興行では掛けられないかもしれないが、真打として掛けるための習作の積み重ねのチャンス。そんな、気合の入った高座だった。
マクラは、お披露目を前に披露興行の番頭を林家きよ彦さんに依頼。兄弟子である彦いち師匠の弟子なので、彦いち師匠に許しを請いにいくと、やま彦ではどう?けい木さんは、駄目ですと即答。やま彦さんのキャラを知っている落語ファンは大受け。
きよ彦さんはしっかり者で、本人と情報共有する必要がある番頭という大変な役目も安心して任せられる。それに比べて、きよ彦さん以外の落語家仲間たちの、愛すべきシクジリ話の数々で客席を沸かす。けい木さんご自身も含めて、酒飲みのシクジリ話をマクラに本編へ突入。
けい木さんの芝浜には、三代目三木助師が創作したとされる芝の浜で日の出を見る場面はない。勝五郎が出掛けてすぐに戻ってくる型で、古今亭一門ではよく聴かれる型。ドラマチックにテンポ良く物語が進んでいくので、私も好きな型。
お馴染みの噺なので、けい木さんの一席で印象に残った個所を上げておく。
改心した勝五郎の奮闘ぶりが、簡潔で効果的。以前の得意先に行って断られるも、お代は要らないから食べてみてくださいとお願いする場面から、その得意先から新たな得意先が広がっていったと簡潔な描写。そこから三年後に店を構え、奉公人も抱える大晦日の風景に移っていく。勝五郎の立ち直りを短く伝える。その後の夫婦の会話でも、掛け取りの心配もいらない、畳の表替えも済んでいる、そんなセリフで、勝五郎が立ち直っていることを強く感じさせる。
見せ場である女房の告白の場面。当時を振り返る話の中で、財布が1年目に下げ渡しになったとき、いち早く告白したい女房に対して大家は「だめだ」と一喝する。黙っているのは辛いと言う女房に対して、勝五郎の女房ならお前も一緒に苦しめと諭す。女房の苦悩が浮かび上がる描写だ。
夢じゃないと分かったときの勝五郎の「だよねぇ~」というセリフ。けい木さんらしいセリフで、思わず笑ったが、まさにぴったりとハマるセリフだった。
下げの場面も丁寧で、余韻を大切にする下げだなあと思わせるもの。お馴染みの名作だが、けい木さんの個性が充分に感じられるもので、真打の身分に相応しい一席だった。