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落語日記 3年ぶりに再開した国立演芸場の鹿芝居興行

国立演芸場 2月中席 大喜利鹿芝居
2月18日
コロナ禍の影響で、令和2年2月に開催されてのちに休止していた国立演芸場2月中席恒例の鹿芝居興行。それが、この2月に3年ぶりの復活となった。
鹿芝居とは、落語家の皆さんが役者として披露する芝居のこと。大喜利として披露する落語家の余芸ではあるが、歌舞伎さながらの舞台背景を前に、歌舞伎役者のような化粧を施し鬘をかぶって衣裳を身にまとい、本格的な芝居を繰り広げる。とは言っても、落語家らしく、本格的な芝居の台詞の合間合間に、ギャグや現在の世情を取り込こんで笑いを取りにいく。また、素人芝居ならではの台詞の言い間違えや、ど忘れなどのハプニングが見られるのも楽しさのひとつ。そんな芝居なので、華が無い噺家芝居ということから、鹿芝居(しかしばい)と呼ばれたとの説がある。
「芝浜」や「文七元結」など落語の演目が歌舞伎の人気演目となったものや、歌舞伎の演目が落語の噺の元となったものもあり、歌舞伎と落語や講談の間には演目の交流があった。
鹿芝居は元々が歌舞伎のパロディが発祥だと思われるが、落語から歌舞伎の芝居になった演目を、落語家が歌舞伎役者の真似をして芝居で披露するという、そんな不思議な関係が現在の鹿芝居にはあるのだ。今回の演目「らくだ」も、落語の演目が歌舞伎化されたものだ。

落語家の余芸として、江戸の頃から続いている鹿芝居。過去には、古今亭志ん生師や三遊亭圓生師、桂文楽師などの名人たちも行っていた。その伝統を引き継いで、金原亭馬生師匠と林家正雀師匠が中心となって、国立演芸場を会場として公演を重ねてきた。それが、コロナ禍によって中断されてしまったのだ。
その後、演芸場を含む国立劇場全体が建て替えのために、今年の10月末をもって閉場されることが決まり、鹿芝居も再開が危ぶまれていた。そんな中での3年ぶりの上演決定は、馬生一門ファン及び鹿芝居ファンとして嬉しい知らせとなった。ただし、コロナ対策だと思われるが、この中席の10日間のうち5日間だけという期間短縮での開催。
この建物では最後となる鹿芝居の公演を目に焼き付けるために、鹿芝居の3日目に出掛けてきた。

今回の鹿芝居の演目「らくだ」は、前回が2017年に上演されていて、6年ぶりの上演となる。今回のメインの配役は、主役の丁の目の半次を馬生師匠、屑屋の久六を正雀師匠、死体のらくだ役を馬久さんが演じて、これは前回と同じ配役。なので、前回の経験が活かせる配役。そして落語同様、この3人がメインで芝居が進行していく。
芝居好きで芸達者なお二人である馬生師匠と正雀師の本格的な演技によって、この鹿芝居そのものが締まっている。
死体役なので喋れず反応も出来ないのをいいことに、金盥をドリフのコントのようにぶつけられたり、踏んづけられたり、イジメられる馬久さん。屑屋におぶさったり、大家の家ではかんかんのうではなくカッポレを踊ったりと大活躍。黄色く塗った顔の表情も、ただ寝ているだけのようではない、まさに死人らしくみえ、かつ怖くなく可笑しいという微妙な演技。この芝居の主演男優賞は馬久さんだ。

その他のキャストは、大家源兵衛を世之介師匠、大家の女房を菊春師匠、そして落語には登場しない道化役の豆屋を馬治師匠が演じて、この3人でコントのような笑いの場面を担当する。
馬治師匠は得意の謎かけを披露。観客からお題をもらって即興で見事な謎かけを作る。
菊春師匠の落語は、鹿芝居にちなんでか素人芝居の噺を披露。この噺の中で登場人物の名前を間違えるというハプニングがあり、鹿芝居の中で世之介師匠が、この失敗をイジって爆笑をとる。こんな即興的な台詞も、鹿芝居の楽しさだ。これも、一座の皆さんのチームワークの良さの表れ。
この鹿芝居が楽しいのは、演者さんたちが皆、楽しそうに演じているからだ。舞台上の楽しさは客席に伝播するのだ。

おそらく、コロナ禍に在って稽古などの制約も多かったと思う。そんな状況での3年ぶりの鹿芝居を、登場人物を減らしたり、メインの配役を前回と同じにしたりなどの工夫を重ね、出演者の皆さんの熱意で成功に導いた。
今回の演目は元々が落語の演目。なので、登場人物の台詞は、このネタを持っている落語家なら、既に腹に入っているはず。芝居用に脚色されているとはいえ、筋書きは同じなので、台詞を覚える苦労は少ないと思われる。そんなところも、この演目を選んだ理由ではないかと推測している。
一座にとって、来年から鹿芝居のホームがなくなり、新しい会場を見つけられるか、不安な状況が続く。
こんな楽しい余興がなくなってしまうのは淋しい。新しくなった国立演芸場に於いて、コロナ禍が治まった平穏な状態で開催されることを、楽しみに待ちたいと思う。

番組

柳家小きち「小町」前座

金原亭馬久「近日息子」

金原亭馬治「子ほめ」

金原亭世之介「都々逸親子」

古今亭菊春「権助芝居」

林家正雀「大どこの犬」(別名 鴻池の犬)

金原亭馬生「辰巳の辻占」

ダーク広和 奇術

仲入り

大喜利 鹿芝居「らくだ」
脚本=竹の家すゞめ(林家正雀)
配役
丁の目の半次・・金原亭馬生 
屑屋 久六・・・林家正雀 
大家 源兵衛・・金原亭世之介
大家女房くま・・古今亭菊春 
豆屋・・・・・・金原亭馬治 
らくだ・・・・・金原亭馬久

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