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落語日記 前座時代の仲間たちの落語会

RAKUGOもんすたぁず スペシャル公演「新春寄席」
1月17日 古石場文化センター
毎回通っているこの会が、毎年正月にゲストを迎えて開催する特別公演。前回のレギュラーの回は昨年の12月6日開催だったので、一ヶ月ほどでの短いインターバルでの開催。
今回のゲストはレギュラーメンバー四人と寄席で同時期に前座修行をした仲間である春風亭一之輔師匠。弟弟子の三朝師匠以外の三人は、もともと香盤では一之輔師匠の先輩。しかし、一之輔師匠が抜擢昇進を果たしたので、後輩に抜かされてしまったのだ。なので、素人目にはやりづらくないのだろうか、と考えてしまう。しかし、皆さんマクラの話を聞くと、そうでもないようなのだ。楽屋は昔話に花が咲いて和気あいあいだったようだ。
いまだに、一之輔師匠は、志ん陽兄さん、小傳次兄さん、燕弥兄さんと呼んでいる。前座時代の先輩後輩の上下関係が、その後も続いていくようだ。前座仲間は、同じ釜の飯を喰った仲間、苦楽を共にした同期の桜の戦友、そんな感じなのだろう。

この会のチケットは昨年発売早々に入手していたので、前日の鈴本演芸場に続き二日連続の落語。それも前日は主任興行、この日はゲスト出演と、二日連続で一之輔師匠を聴くこととなった。このスペシャル公演は、チケット完売の人気。さすが、人気者の一之輔効果。
自由席なので、開場と同時に入る。ロビーにて検温、連絡先記載、手指消毒の作業があり、会場入り口には行列が出来る。入場すると、間隔を空けて配置された座席。運よく前方の席に座れる。見渡すとほぼ満員。緊急事態宣言下でも、キャンセルした人はほとんどいないようだ。自分も多少悩みながら、結局は参加したのだった。

春風亭貫いち「元犬」
前座さんは、一之輔師匠の四番弟子。変わったクスグリを入れたり、噺を変えている。「もとは居ぬか」の下げではない。その後にも噺は続き、下げを変えている。オリジナルなのか。最近の前座さんは、噺を色々といじってくる。私はあまり好きではない。

柳家小傳次「碁泥」
前回拝見したときから一ヶ月ほどなのに、小傳次師匠はいくらかふくよかになられたような気がする。気のせいか。
趣味の話から定番のマクラ。商家の旦那衆の会話がのんびりした雰囲気。笑いどころが少ない噺なので、淡々と噺が進む。なので、少しウトウト。抑揚の少ない噺は観客側が集中力を保つのは難しい。

古今亭志ん陽「壺算」
マクラの話では、志ん陽師匠も少し体形が豊かになられたとのこと。元々豊かな方は、少しぐらいの変化ではわからない。
お後お目当てお楽しみに、短くしますと言って本編へ。志ん陽師匠では寄席で聴いて以来、おそらく二回目。
見た目も手伝って、瀬戸物屋を騙す買い物上手な兄貴分が、そんなに悪者に見えない。むしろ騙される瀬戸物屋の粗忽ぶりが協調される。騙される瀬戸物屋は可哀そうなのに、観客としては、いじめる快感を味わってしまう。これは、志ん陽師匠の風貌や雰囲気による役得かも。

春風亭一之輔「猫の災難」
いつも仲入りは、スペシャルゲストの出番。会場も満場の拍手で、お待ちかねの雰囲気。
いつもの一之輔師匠らしく、マクラから爆笑を取っていく。この会場の思い出話、前座仲間だったレギュラーメンバーとの思い出話。特に、池袋演芸場の終演後に燕弥師匠と燕弥師匠の彼女と三人で飲みにいった思い出話が秀逸。そこから酔っ払いの噺に入るという、見事な導入部。
本編は、おそらく得意の演目。一之輔師匠では初めて。初めは大人しかった男が、酒を飲むほどに意地汚い本性が現れる。人間の欲望がむき出しになっていくさま、その変化を見せる。良心が段々と隅に追いやられていく様子。悪気の無いところから、じょじょに本性の中の悪気が見えてくる。その変化の描写が秀逸なのだ。これが一之輔師匠の技量。

この一之輔師匠が見せてくれる登場人物の自由奔放なセリフや立ち振舞いによって、観客にその登場人物の欲望を共感させて、それが可笑しさを生んでいる。
その欲望の象徴として、酔っ払い男は幻覚のような言い訳を思いつく。天窓が突然開き、そこから酒呑童子が顔を出して、蝶のような管を一升瓶に伸ばして、酒を吸い尽くしてしまったといもの。喉から手がでる、ではなく、喉から管が出るほど飲みたいという欲望の具現化なのか。こんな変化球を突然投げられた観客は、大爆笑の大振りの三振だ。
一之輔師匠が描く噺の中の人物は、落語世界の象徴的な人物。それは人間の欲望に正直で、その感情を隠そうとしない。現実世界の我々が心の奥底に仕舞いこんでいる欲望を覗かせてくれる。欲望に従えない我々の代弁者が落語世界の住人。そんな我々の欲望に迫っているから、共感の笑いが起きる。
この高座のあと、鈴本演芸場での主任興行の出番へ移動。ネットで調べると、この日の鈴本演芸場で掛けた演目は、この「猫の災難」だったようだ。

仲入り

春風亭三朝「紀州」
続いて一之輔師匠の弟弟子の三朝師匠の登場。寄席の出番も多い売れっ子だ。この日は、珍しく地噺。
語りで進行する噺なのだが、リズミカルで調子のいい講談とは違う。まさに、落語家の語り。ゆるやかに進み、語り手の視線にシニカルさのある語り。将軍の座を逃した尾州公の心情が描かれるのだが、その欲望と見栄と落胆の描かれ方が、落語世界の登場人物。長屋の江戸っ子と変わらない、人間の本性。これぞ落語家の描く武家という姿。さすが、「やかんなめ」でNHK新人落語大賞を受賞した三朝師匠、武家をシニカルに描くのは得意中の得意。

柳家燕弥「不動坊」
さて、この日のトリは燕弥師匠。前回は久し振りに拝見したので感じてしまった雰囲気の変化。今回も同じ変化を感じた。ヘアースタイルの変化だけではない。これもコロナ禍の影響かも。
この日の演目は、色々な場面が登場する芝居を観るような滑稽噺。登場人物が多く、キャラも多彩。特に前半の主役である吉公は、長屋で大家から縁談を勧められる場面と銭湯で一人で喜びを爆発させる場面が、同じ人物なのにキャラ変しているという難しさ。しっかり者なのか粗忽者なのか、どちらでもある。感情ダダ洩れは、落語世界の住民ならではのお約束。観客も照れずに笑えるのは、その感情爆発の馬鹿馬鹿しさがストレートだから。そんな吉公を燕弥師匠が好演。
そして後半は、振られ男三人衆と売れない落語家の茶番の場面。細かいボケの連続で、こちらも難しいはず。偽物幽霊役の落語家が、どうみても演技が下手。下手な演技であることを、上手く見せてくれた燕弥師匠。
本寸法な人情噺を得意とする燕弥師匠の新たな一面を見せてくれた一席だった。

さて、前回の日記以後、落語協会から今回のコロナ感染に関する告知があった。
1月20日に、定席公演出演者である鈴々舎馬風師匠と桃月庵白酒師匠のお二人が新型コロナウイルスに感染していることが判明。正月二之席公演(鈴本演芸場(18日より中止)、末廣亭、池袋演芸場)、1月下席公演(鈴本演芸場(すでに中止を発表)、浅草演芸ホール、池袋演芸場)が全面中止となった。
これは寄席以外の落語会の開催にも大きな影響を与える出来事。お二人の一日も早いご快復を祈るとともに、今後の動静を注視したい。

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