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落語日記 鹿芝居が出来ない悔しさを晴らすかのような熱演を披露してくれた馬生師匠

国立演芸場 2月中席昼の部 金原亭馬生主任興行
2月13日
先日の馬生独演会に続いて、国立演芸場での馬生師匠の主任興行にお邪魔してきた。今月は、私にとって馬生一門祭りとなっている。この後も、一門の桂三木助師匠の主任興行が控えているし、馬治師匠の定席出演も続き、馬生一門ファンとしては嬉しい忙しさだ。
本来は、国立演芸場2月中席は、毎年恒例の「鹿芝居」の興行が行われてきた。それもコロナ禍によって、2020年2月中席での「お富与三郎・与話情浮名横櫛」を最後に、昨年、今年ともに中止となった。その代わりに、通常の馬生師匠の主任興行となった。

「鹿芝居」とは、噺家が演じる歌舞伎のパロディのような芝居のこと。噺家が演じるので、本来は「はなし家芝居」と呼ぶべきなのだろうが、噺家には華がないので「はな」を取って「しか芝居」と呼ばれているらしい。「しか」に「馬鹿馬鹿しい」の鹿の字を当てたという、そんな説もある。役者ではない噺家が演じるので、真面目にやっても迷演技で可笑しいのだが、時節の話題などを盛り込んだり、身体を張ったギャグなどを披露するサービス精神満載のコメディなのだ。この鹿芝居は、落語家の余芸として寄席において昔から行われてきた。

馬生師匠は、その寄席芸の伝統を絶やさないようにと、寄席における落語以外の伝統芸能の承継についても熱心に取り組んでいる。馬生師匠は寄席の主任興行の中で、鹿芝居の他にも、茶番や高座舞を馬生一門が中心となって披露してきたのだ。それらも、コロナ禍によって中止を余儀なくされた。鹿芝居や茶番や高座舞という寄席演芸の中の一分野を楽しめる貴重な機会が、コロナ禍によって奪われてきたのだ。
特にセットや鬘、衣装に費用が掛かる鹿芝居の興行は、国立演芸場以外の寄席での実現が難しい。コロナ禍の終息後には再開して、今後も存続させて欲しいと願っている。
この芝居の顔付けは、いつもの鹿芝居の一座の皆さん。その鹿芝居は出来ないが、本来の落語の持ちネタで、観客を喜ばせようと奮闘されている。

金原亭駒介「道灌」
前座は、一門の末弟。小町や諸葛孔明の逸話が盛り込まれた、古典の香り高い道灌。さすが、馬生一門って感じ。

金原亭小駒「鰻屋」
小駒さんでは、最近よく聴く演目。小駒さんの中では、マイブームな噺なんでしょう。明るく軽妙なところは、さすが先代馬生の血統。それに加えて、いつもニコニコは、小駒さんの売りのキャラだ。

金原亭馬治「真田小僧」
蟹と入歯、師匠の入院という十八番の定番マクラのフルコースで、会場を一気に暖める。本編も得意の演目で、生意気な金坊で会場を沸かせる。これは、営業バージョンらしい。

ホンキートンク 漫才
代演のようだ。最近、弾さんと遊次さんの息もピッタリ合ってきた。豊洲でドーン、会場もドーン。

林家正雀「紙屑屋」
鹿芝居では、いつも女形の役で一座の中心となって活躍されてきた正雀師匠。芸達者らしい演目で、清元、芝居、義太夫をはめ込んで見せてくれた。おまけに、絶品の彦六師匠の物真似まで披露。

仲入り

古今亭菊春「親子酒」
鹿芝居ではいつも道化役の菊春師匠。この芝居では、いつも世之介師匠とコンビを組んで、コントやマジックショーを披露されている。鹿芝居一座では色物担当の菊春師匠。落語を聴くのは久し振りかも。その芸風から、かなり滑稽噺に寄った親子酒だった。

ダーク広和 マジック
裏の模様に色が付いたトランプを指先で操るファンカードという手品を見せてくれた。地味だけど、手先の器用さや技術が要求される手品であることが伝わり、会場も感心しまくり。

金原亭馬生「品川心中」
鹿芝居が無いかわりに、主任の馬生師匠がじっくりと通しで長講を聴かせてくれた。
この主任興行では、馬生師匠はネタ出しされている。11日「笠碁」・12日「らくだ」・13日「品川心中」・14日「王子の狐」・15日「芝浜」・16日「死神」・17日「文七元結」・18日「猫の災難」・19日「淀五郎」・20日「居残り佐平次」というラインナップ。鹿芝居が出来ない分、日替わりで大ネタに挑戦されている馬生師匠。さすが、鹿芝居の主役、サービス精神は旺盛なのだ。

本編は、品川の遊郭白木屋での心中騒動、親分の家での博奕騒動、白木屋に戻ってお染への仕返し、それぞれの見せ場を省略することなく要領良く再構成して、一気呵成で下げまで聴かせてくれた。主任の持ち時間のなかに全部を詰め込むのは、中々に技量が要ること。噺の要所を外さず、大事なセリフも削らず、またダレルこともなく長講を聴かせる。まさに馬生師匠ならではの凄い一席だった。鹿芝居が出来ない悔しさを晴らすかのような熱演で、鹿芝居を観ることが出来ずに残念に思っている観客も、充分に満足させたはずだ。

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