落語日記 落語協会、秋の真打昇進披露興行の大初日を任された柳家平和師匠
鈴本演芸場 9月下席夜の部 真打昇進襲名披露興行 柳家平和主任
9月21日
落語協会の新真打4名の披露興行、その大初日に行ってきた。真打披露興行は、昨年の秋の落語協会の春風亭一蔵師匠、市弥改め8代目柳亭小燕枝師匠、小辰改め10代目入船亭扇橋師匠の3名の披露興行に行って以来。
この秋9月下席から真打に昇進するのは、林家まめ平師匠、柳家かゑる改メ二代目柳家平和師匠、柳家さん光改メ柳家福多楼師匠、林家木りん改メ林家希林師匠の4名。この大初日の主任を務めるのは、柳家平和師匠。久々のお祭り気分を味わいたいのと、高座舞などに出演していて馬生一門とも仲が良く、馬生一門ファンにもお馴染みの柳家平和師匠の晴れ姿を拝見したくて出掛けてきた。平日なので、仕事を終えて駆け付けたので、橘之助師匠の途中からの入場。
立花家橘之助 浮世節
終盤から拝見。お目出度いのでと、かっぽれをひと踊り。
柳家権太楼「代書屋」
何事も8割がちょうど良い 客席も8割くらい、そう言ってからこの日の客の入りを前に苦笑いして、このくらいもちょうど良い程度です、で会場爆笑。
本編は、十八番の噺。クスグリもたっぷり。笑いで盛り上げることが、権太楼流の祝儀だろう。
仲入り
真打昇進襲名披露口上
柳家三三(司会)柳家権太楼 柳家平和 柳家小さん 柳亭市馬 鈴々舎馬風(客席から見た並び)
柳家の重鎮やベテランが並ぶ口上。三三師匠の真面目な司会に対して、先輩たちが笑いで崩していく。
権太楼師匠の挨拶が印象的だった。初めて会ったのは、平和師匠がまだ入門前。地域寄席の観客として観に来ていたときで、平和師匠は当時は高校生。後に前座入りしてから楽屋で顔を顔を合わせるたびに「大丈夫か?」と声を掛けた。この意味は、師匠の柳家獅堂さんで大丈夫か、という意味。小さん門下に移籍したと聞いたときは「良かったねえ」と声を掛けたと。
前の師匠で平和師匠が苦労されたらしいことは、落語ファンなら何となく知っている。師匠が替わったのも、何らかの事情があったのだろう。口上でもこんな話題が笑い話として登場し、祝儀の場を盛り上げるというのは、落語界ならでは。そんなシニカルな笑いの中にも、平和師匠の真打までの苦労が偲ばれ、祝賀のムードが盛り上がるのだ。前の師匠の負のイメージも、笑いの種として飛躍の力に変えていってほしい。
馬風師匠のみが椅子に着席。しかし、馬風ドミノは健在だった。
翁家社中 太神楽曲芸
二枚扇の曲 五階茶碗 土瓶の曲 輪の交換取り
先日の末廣亭でも拝見した、二枚扇の曲。華やかで、お目出度い。祝儀の高座にピッタリ。
林家希林「寿限無」
この披露興行では、主任以外の新真打のうち一人が交代で出演する香盤となっている。この日は、新真打のうち林家希林師匠が出演。
身長と体重は、大谷翔平と同じ。元大関で7代目伊勢ヶ濱親方の清國勝雄氏の息子さんであることは、落語ファンには有名なこと。その大きな体格を感じさせない、イケメンでスマートな印象。
噺は前座噺、それも寄席でめったに聴かない噺。真打昇進後の最初の演目が前座噺とは、逆に印象に残る。
柳家三三「お血脈」
膝前は、口上の司会も担当した三三師匠。クスグリたっぷりで笑いどころ多い噺を、軽く流す感じの一席。
初主任の新真打の高座を邪魔しないような気づかいを感じる。ほどほどに温めて下がる。こんなところも三三師匠のカッコ良さ。
林家正楽 紙切り
相合傘(平和バージョン・鋏試し)・鳩とカエル・ラクビーを切っている正楽師匠
鋏試しもお披露目バージョンで、平和師匠が登場。さすがです。
柳家平和「買い物ブギ」
やや高揚した表情で登場。馬治師匠の勉強会に手伝いにきてくれたり、馬生師匠主任の芝居でもお手伝いに来られていた。なので、身近に感じて、二ツ目の中でも親しみを持って応援していた。そんなかゑるさんの真打昇進、個人的には感慨深いものがある。
さて、真打昇進後の最初の演目、何を掛けてくれるのかと楽しみにしていた。そして披露してくれたのが、立川志の輔師匠作の新作落語。これは、ちょっと予想が外れて意外な感じ。新作にも熱心に取り組んでいるのは知っていたが、披露目の初日に志の輔師匠の新作を持ってくるとは、ちょっとビックリ。この演目は初めて聴く。
噺は、奥さんに買い物を頼まれた男がドラッグストアに行き、その店の新米の店員との間で頼まれた品物を巡って奇妙な問答を繰り返すという筋書。慣れない買い物をする男性が、女房なら難なく選べる商品の選択で大いに迷い、店員に尋ねる内容がとんちんかん。正論と嫌がらせのどちらとも取れる質問の連続。まじで尋ねているとは思えない賢さがあり、想定外の質問をして店員をイジッて楽しんでいる。そんなイタズラ好きのおじさんに見える。
そんな意地悪おじさんのその質問に対して、馬鹿正直に答える新米店員も可笑しい。ちょっと可哀そうになるレベル。でも、その会話のシナリオがきっちり出来ているので、会話を聞いているだけでも充分に可笑しい。それに、平和師匠の登場人物の表情が加わり、可笑しさが増す。買い物客おじさんのとぼけた表情、また新米店員の真面目だけどどこか抜けている表情。下げ間際では、店長や他の客も巻き込み、皆の怒りが爆発して下げとなる。
披露目の一席目、平和師匠はまずは客席の笑いの分量を増やすことを優先させる、そんな意図を感じた高座。サービス精神旺盛なことを感じさせた、平和師匠の披露目の初日だった。