落語日記 四年がかりで圓朝の連続物に挑んでいる馬生師匠
落語日記 四年がかりで圓朝の連続物に挑んでいる馬生師匠
第19回 全生亭
11月3日 谷中・全生庵
三遊亭圓朝師の菩提寺である全生庵において、毎年この祝日に開催されている落語会。馬生一門が出演し、主任の馬生師匠が圓朝作品に挑戦している。今年は連続物「真景累ヶ淵」の三回目。このところ、毎年参加している。
お寺の本堂が会場ながら、祝日の午後というのんびりした雰囲気で、観客の皆さんもくつろいでいる。常連さんが多い会で、顔見知りの馬生一門ファンが多く来場されていた。
平井正修住職の挨拶
この会は、住職の恒例の挨拶から始まる。コロナ禍の影響なければ、本堂にあふれんばかりの観客が集まるところ、この日も定員削減しても満員にはならない状況。でも、今日くらいの観客数であれば、ゆったりと鑑賞できる環境になっている。主催者としての痛し痒しの状況であることの本音の吐露。なかなか人間味を感じさせるご住職。
金原亭馬太郎「のめる」
前座無しで、まずは馬太郎さんから。この会は、すべてネタ出し。馬生一門らしくマクラは簡略。すーっと本編に入る。明瞭な語り口で聴きやすい。端正で本寸法な一席で会場を暖める。
金原亭馬治「生徒の作文」
この日は、惣領弟子が前方で出演。ネタは滑稽噺。主任の圓朝ものが陰惨な怪談噺なので、ここは明るく馬鹿々々しい噺で笑いを提供。
この噺は、生徒の名前や作文の内容を色々と工夫していじることが出来るので、演者の個性を発揮しやすい噺だろう。馬治師匠の一席も、生徒に中尾彬くんや上西辰延くんが登場。祖父が代筆して年寄りの日常を作文にしたものが、高齢者の多い客席には受けていた。
桃川忠 紙切り
鋏試し「寿」「流鏑馬」リクエスト「七五三」
切ってきたもの「酉の市」「熊手」「紅葉」など季節にちなんだものを観客にプレゼント。
仲入り
この会恒例の一門の皆さんによる、会場を廻りながらのチケットの手売り。一番張り切って売り声を上げているのが小駒さん。私は馬久さんから一枚購入。
金原亭馬生「圓朝作・真景累ヶ淵~其の三~」
主任の一席は一時間以上の長講。連続物だが、前回から一年経っているし、初めて聴く方もいらっしゃるでしょうからと、今までの粗筋を丁寧に解説。この粗筋を分かり易く伝えることは、結構難しいと思われる。馬生師匠は、この粗筋も分かり易くかつ、楽しく伝えてくれる。
また、噺に関する蘊蓄話も馬生師匠の魅力。この日もこんな話。豊志賀の住まいを根津七軒町と圓朝師が言っていたが、本来は池之端七軒町が正しく、現代で言うと、文京区か台東区かという違いになる。でも、圓朝師匠の通りで演ります。
そんな粗筋の後、三回目となる本編へ。その本編も、本来の噺を取捨選択して再構成されたようだ。お久殺しから始まって、その後も殺人の場面が登場し、登場人物も多くて複雑な人間関係だ。これを再構成して時間に収めるのは、至難の業だったと推測できる。
次回で完結するそうだ。ここまで聴いたので、ぜひとも来年も参加して大団円を見届けたい。