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落語日記 五代目として独自の芸に取り組む姿も見せてくれた三木助師匠

池袋演芸場 2月下席昼の部 桂三木助主任興行
2月27日
祝日の23日の前回訪問に続いて、二度目の三木助師匠の主任興行。この日は日曜日の昼席、客席は8割くらいの入り。前回同様に、なかなかに盛況。団体に近い感じで、顔見知り同士らしき観客が多数来られていた。おそらく、三木助師匠のご贔屓さんたちだろう。主任興行に贔屓が集まる様子は、三木助師匠の成長が感じられて、以前から見てきたファンとしても嬉しい限り。
この日は、顔見知りの馬生一門ファンもチラホラ。

前座 春風亭枝次「道灌」
百枝師匠の弟子とは思えないほどの正統派な印象。また声も良い。将来が楽しみ。

金原亭小駒「強情灸」
この日の二ツ目枠は小駒さん。頭頂部に少しだけもさもさした毛髪を残し、周囲は全部刈上げた独特のヘアスタイル。パイナップ、もしくはセサミストリートのバードのようだ。愛嬌あふれる表情の小駒さんにはよく似合う髪形。
このところ鰻屋が続いていたので、今日は違う演目でほっとする。この日も感じたのが、おじいさんである先代馬生師にどこか似ている語り口や声音。やはり血筋だ。

春風亭柳朝「持参金」
代演。久し振りに拝見。飄々とした語り口が寄席に合う。
金に対する欲望を隠せない男たちが、器量の良くない女性を出しに使うという噺。現代のジェンダーフリーの考え方に、真っ向から逆らうような筋書き。おそらく寄席でしか聴けない噺、放送には馴染まない噺、特に女性が聴くと不快に感じるかもと想像できる噺。そう言う意味で難しい演目。これを落語として笑い飛ばせる噺として口演できるのは、柳朝師匠の技量と飄々とした持ち味からだろう。

玉屋柳勢「風呂敷」
続いて、こちらも男女の機微、焼餅焼きと間男を題材とする噺。しかし、風呂敷の方が根底に夫婦の愛情やお互いを想う気持ちが感じられるので、持参金ほど後味の悪い噺ではない。柳勢師匠の演じる兄貴分が、心配性の女房と焼餅焼きの酔っ払い亭主を上手くあしらっていてカッコイイ。見せ場での兄貴分の得意気な表情、板についている。

ホンキートンク 漫才
馬生祭りの色物はこの二人なのか、私が行く日の漫才枠はホンキートンクが続いている。
続けて拝見しているので、ネタもお馴染みになってきた。そして、日によって微妙にネタを変えているところも分かって、マニア目線でも楽しめる。この日も遊次さんが大汗かいての熱演。

柳家小せん「反対俥」
前回と違って、この日は体力勝負の演目を、文字通り身体を張っての熱演。こんな滑稽噺もさらっと聴かせるところは、さすがのオールマイティーの技巧派だ。
小せん師匠から主任まで古典のお馴染みの演目が続く。主任を盛り上げる流れを作っていて、寄席らしさを醸し出すベテランの皆さん。

隅田川馬石「元犬」
代演。この日は寄席を掛け持ちされていたようで、相変わらずの人気ぶり。
この日の元犬は、馬石師匠で聴けると凄く嬉しい噺。太古から犬と人間の関わり方の歴史を馬石流に話してくれるマクラが楽しい。また、馬石師匠の忠四郎ちゃんが可愛い。動物が本当にそのまま人間になったらこんな性根だろう、と思わせる純真さが忠四郎から感じられるのだ。そんな純真な忠四郎とご隠居との、嚙み合わない会話が楽しい一席。

仲入り

金原亭馬治「子ほめ」
後半戦は兄弟子の一席から。少し時間が押しているようで、駆け足で短めの一席。次の出番が師匠だと、色々と気を遣うようだ。
馬治師匠の子ほめの主役は、粗忽者というよりは、悪知恵で一杯ゴチになろうというズル賢い男。憎めないけど、ちょっとしたワルなのだ。この悪馬治も、なかなかに楽しい。

金原亭馬生「親子酒」
馬生師匠でこの噺を聴くのは初めてかも。今までに聴いた記憶にない。弟子の馬治師匠は得意としているし、寄席ではよく聴く噺なので馴染みはあるのだが、馬生師匠で聴くと、ちょっと新鮮な印象。
酒飲みである父親の大旦那の貫禄が、まさに馬生師匠の年齢にピッタリ。酒に関しては意地汚いお爺さんである大旦那。馬生師匠の貫禄と軽妙さが、その大旦那の意地汚さと酔っ払いぶりと見事にマッチ。私にとっては貴重な一席だった。

柳家小菊 粋曲
この日も艶やかな小菊師匠。小菊師匠の番組表などで表示される色物のジャンルが「粋曲(すいきょく)」。
ここで、粋曲とは何ぞや、をメモしておく。以下は、ネット情報から抜粋。
江戸の頃から庶民が口にしていた唄である「都々逸」「さのさ」「大津絵」などの端唄や俗曲。これらを寄席で粋に唄いたいという思いで、新内の太夫でもあった二代目柳家紫朝が名乗った音曲のジャンル。
紫朝が確立した「粋曲」は、邦楽の中のひとつのジャンルや流派ではない。都々逸、大津絵などの俗曲や端唄、新内節など、粋で江戸情緒あふれる様々な音曲を三味線を弾いて唄う寄席演芸のこと。また、紫朝一門の芸を称して、こう呼んでいるようだ。もちろん、小菊師匠も二代目柳家紫朝の弟子。

桂三木助「茶の湯」
さて、この日の演目は「茶の湯」。三代目の十八番に挑戦している当代五代目だが、この「茶の湯」が三代目の十八番だったということは聞かない。五代目ご自身の独自の挑戦として、取り組んでいるネタなのだろう。私は五代目で聴くのは初めて。
五代目は、古典は本寸法で、余計なクスグリなど入れ事はしないタイプだと思っている。この日もまさに本寸法な一席。三軒長屋の客人の場面まで丁寧に描くところは、主任の時間を有効に使っている。
五代目の若さで隠居した大旦那の風格や貫禄は似合わない。しかし、その分、大旦那の知ったかぶる自尊心の高さを滑稽に描いている。金持ちの適当な道楽や見栄っ張りであることを上手く描けているのは、五代目がお坊ちゃまであるからに違いない。大旦那に仕える定吉の調子の良さも、五代目の雰囲気に合っている。そんな、五代目の自らの雰囲気を、上手く活かした茶の湯だった。

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