どんでん返し映画の金字塔、『情婦』を語る。
アガサ・クリスティーの短編小説「検察側の証人」の映画化作品。
『情婦』(原題:witness for the prosecution) 1957
どんでん返し映画といえば、映画初心者にはもってこいな名だたる有名作品がたくさんあって、私もかつてまだ映画視聴本数が100に満たないとき好んでよく見たジャンル(?)だった。
『ユージュアル・サスペクツ』『ピエロがお前を嘲笑う』『ファイト・クラブ』『グランドイリュージョン』『フォーカス』『メメント』etc…
年代も幅広く見てきたはずなのに、なんということか、
こんなにも素晴らしい大どんでん返し作品を見落としていたなんて。
というわけで、簡単にあらすじを。
何がそんなにハマったか。
ズバリ、
血生臭い殺人事件の話に紛れる面白可笑しさと高貴さ。
アガサ・クリスティーによる見事な脚色、テンポのいい展開、張り詰めた空気が漂う裁判の様子。にもかかわらず、思わずぷっと吹き出してしまいそうになるユーモラスな部分。白黒映画(50年代映画)の高貴さ、それらの絶妙なバランス感。
(⚠️以降、ネタバレ含みながら語ります。絶対に絶対に、映画を見てください。)
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冒頭数十分で描かれる、ローバーツ卿の強烈な存在感。
”弁護士”という法のもとで戦う存在の高貴さ、傲慢さ、その風貌が物語る。そして欠かせない、片眼鏡、付き添い看護婦の目を盗み吸う葉巻、ラッパ飲みで流し込むアルコール、独特な会話表現、裁判中に薬を並べてつまんなそうにする姿。サスペンス映画らしからぬこの力の抜けどころが後半になれば、クセになってくる笑笑 彼の一挙手一投足に目が離せない。
物語は容疑者視点でも、観客視点でもなく、
そんな彼、ローバーツ卿の背中を追う形で進んでいく。
もといこの映画のミソとなるのは、妻・クリスチーネの証言。レナードは、あの日確かにアリバイとなる時間に家に着いたと主張する、それさえ証明してくれれば終わる単純明快ストーリー。しかし、夫が逮捕されたにも関わらず顔色ひとつ変えないクリスチーネ。全面的に協力するとは言うものの、何かが不穏な空気を纏う彼女に、幸先が怪しく思えてくる。(魔性のオンナ〜)
な、な、なんと、その嫌な予感は的中。
レナードは正式には夫ではない、彼女には祖国に別の夫がいると言う。
しまいには裁判の証言台でローバーツ卿を裏切る大胆発言。
たちまちレナードは窮地に追い込まれる。
私はこう思った。
はい、きた、お決まりストーリー。どんでん返し映画の名物ね。
ここ1番の盛り上がり。
待て待て待て。
不意をつかれたローバーツ卿も黙っちゃいない。新しい証言や情報を血眼になりながら探す。そしてクリスチーネの証言の信憑性を揺るがす大きな証拠になりうる彼女直筆の手紙を持つという女性からの密告を受ける。(このシーンもとにかく大男ローバーツ卿の必死すぎる表情が面白い笑)その助け合って、彼女の証言は却下。弁護士ローバーツ卿は無罪を勝ち取り、レナードは無罪となる。もちろん、クリスチーネは偽証罪を被ることになった。
どん底からの、大逆転勝利。
一見全てが終結したと思われたこの事件。まだあった。謎の女性からの密告はまさに『溺れる人はカミキリの刃さえも掴む』(ローバーツ卿が冒頭で放った独特な言葉)状態のローバーツ卿への罠であり、陪審員に同情をさそう作戦だった。つまり、レナードを無罪にするために、愛する夫のために、嘘の証言をするという彼女の深い愛の真髄ゆえ成り立った計画。
ローバーツ卿やっちまった。殺人犯を野放しに。
と思いきや、、、、、まだあった。なんとレナードは別の女性に恋をしていて、無罪になった今、愛ゆえ嘘の証言をした妻などお役御免如く別れようと言い放つ。裏切られ、利用されたことに怒ったクリスチーネはその場でレナードを殺す。
衝撃展開。まさかの結末。
そこでようやくこの映画のタイトルに帰る、『情婦』
夫を心から愛し、自分を犠牲にしてまで添い遂げる覚悟を持ち、愛に狂った彼女を、思い浮かべる。
最高傑作としか言えない。お気に入りの一作になりました。