『巨人宇宙』
この時を待っていた。
巨人が私の体をつまみ上げたのだ。
目に映る景色がどんどん高くなる。
巨人の体格は、以前見たときよりずっと大きい。
大きな体に見合わず、その動きは俊敏だ。
私はまばたきを一回している間に、体ごと巨人の口の中に運ばれた。
生暖かいその舌が、私の肌に貼りつく。
次の瞬間、私を喉の奥まで飲み込むのだ。
巨人には、歯は無い。
このままするりと吸い込まれていくのだろう。
この時を待っていた。
私の大好きなあの人が飲み込まれてから、ずいぶん経つ。
二人一緒にいることが何よりも幸せだった。
ある時、巨人に選ばれた。
彼は私の目の前で旅立った。
「あっちの世界で会おう。必ず、待ってる」
その言葉が最後だった。
貼りつく舌を感じながら一瞬、未知なる世界への不安が身体の内側を駆け抜けた。
その不安を打ち消すように、私はあの時の彼の姿を脳裏に見ながら
巨人の喉の奥に落ちていった。
私は意識を失った。
いつしか私の魂は養分となり、吸収され、巨人の体を循環しはじめた。
時には勢い激しく、時には砂の粒をかき分けるように繊細に。
こうやって巨人は、もう百億以上の歳月を生きている。
私は巨人の一部になった。
私は宇宙の法則に身を委ねたのだ。
どのくらいの時間が過ぎたのか
以前暮らした世界がどんな世界だったかを忘れかけた頃
私は突然、明るい場所に放り出された。
ここは・・・巨人の内側か?
そうだ、彼を探さなければ。
——ゲンキナオンナノコデスヨ
言葉がうまく出ない。ぎゃぁぎゃぁと泣き叫ぶことしか出来ない。
体も自由に動かず、手足をバタバタさせることが精一杯。
ああ、なんてこと。
ようやくこの世界に来ることができたというのに
自分の意志では何もできない。
何もかもが未熟なままここに来た。
・・・それでも
あの人がどこかに居る。
きっと私を待っている。
一日も早く、この体に慣れて。
一日も早く、この世界の言葉を理解して。
彼に会いに行く。
大好きなあの人に。
この時を待っていた。
おわり
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