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最近の記事

『ヘビのビビ』

 急いで。とにかく走って・・・早く確かめたい。こんなこと相談できるのは、この世に一人だけ。玲香ちゃんしかいない。  ハァ、ハァ、ハァ、・・・ハァ・・・。 「どしたの? 血相変えちゃって・・・」  高校が別々になったことで、玲香ちゃんと会う機会が格段に減った。〝相談したい〟という気持ちの半分は、玲香ちゃんに会いたい口実だ。 「ていうか、」  泣きそうじゃない? と言いながら私をおうちに上げてくれた。よかった、いつもの玲香ちゃんだ。  玲香ちゃんちは一軒家で、二階に玲香ちゃん

    • 『月の妖精』 後編

       羽根を持たない妖精が、ひとり夜空を見上げています。ここは石の宮殿の庭。視線の先には、ふたつの妖精の影がありました。 「行ってらっしゃい、お兄様、お姉様」  ふたつの影が小さく見えなくなると、その妖精は下を向き、宮殿の外へ向かって歩いて行きました。彼にとって、夜は人目につかずに外出できるチャンスなのです。人目につくとどうしても、羽根の無い妖精だと指をさされているような気がしてならなかったから。  門番の男が気をつけの姿勢をしています。 「門番だって、僕のことバカにしてるに違い

      • 『月の妖精』 中編

         王宮の三つ子は、産まれて数週間のうちにサナギになり、長い長い眠りのあとに男の子が、そして次に女の子が大人の姿へとふ化しました。華奢な体に透きとおった羽根。人間の背中にモンシロチョウの羽根が生えたような、とても幻想的な姿です。だけど心配なことに、ふ化したのは二人だけ。三人目の赤いサナギは待てど暮らせど、サナギの姿で眠ったままでした。  長男の男の子が赤いサナギの様子を伺っています。その姿をシシルナが見かけて声をかけました。 「母上様、このサナギ、いつまで眠ってるつもりなんだろ

        • 『月の妖精』 前編

           月の光が空から降り注ぐ。白い光が全てを照らす。草も木も、遠くの山も、昼間とは違った顔を見せるその光景は、夢の中にいるような、世界がまるで絵画の中に収まってしまったかのような神秘の色で満ちている。僕の大好きな月夜の景色。  小さいころから、月を見上げることが大好きだった。月も、僕を見ているような気がした。月のまわりの星たちが、お月様を守っているように見えて、僕もいつか死んだら星になって、お月様のそばに居たいと思った。出来るだけお月様の近くに・・・。  柔らかい風が髪をくすぐ

        『ヘビのビビ』

          『月の子』

           今日は朝からテレビのニュースやワイドショーが騒がしい。大学に行く仕度をしながらチャンネルを選ぶも、どこも同じ話題を取り上げている。画面に映し出されているのは、アメリカのどこかの都市から見上げた月のライブ映像。月の表面、右下あたりに大きな黒ずみがあり、これが四本指ではあるが人の右手の形に見える。この黒ずみが一夜にして現れたというのだ。  司会の男性がコメンテーターに問いかける。 「ではもし月の地盤変動が原因ではないとすれば、宇宙人説ということも出て来ますが・・・」 「そんなこ

          『月の子』

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          空想の、ファンタジックなストーリーを書いています。 ほんのり心がほぐれる物語たちです。 <各ストーリーへのリンク> 七色の牙 月の子 月の妖精 (前編) 月の妖精 (中編) 月の妖精 (後編) ヘビのビビ ☆次のストーリーの準備中です。

          『七色の牙』

          「象だ! 南東の方角に象!」  叫び声とともに、村じゅうに鐘が鳴り響いた。  村は小さな規模の集落で、石造りの簡素な建物が乾いた土地に散在している。砂漠の村──イヴォイ族の村。その中心にある塔の一番上から、見張り番が十二回の鐘を鳴らし終える頃、眼下に一人の少年が駆けていくのが見えた。ルトゥだ。日差しを遮るための白い布を頭に、そして体にも大きな布をまとっている。なびく布。その下から覗かせる、美しく引き締まった浅黒い肌。まるで空気の塊を次々と蹴り上げるように、ルトゥは軽やかに砂

          『七色の牙』