『ミハルとアミ』 プロローグ
夏の終りの陽はまだ長く、ヒグラシの声がキキキと耳につく。確かもう午後六時をまわったはずだ。後からタクシーを降りた黒い服の母親が「こっちよ」と促す。
側面を夕陽に照らされた大きな建物。玄関のガラス扉が開かれる。いつの間にか母親に手を引かれ、一歩その空間に足を踏み入れると、効き過ぎたエアコンの冷気が首もとに貼り付いた。同時に、目に飛び込んで来たのは黒い服を着た大人たち。一様に皆しんみりした面持ち、というより無表情に近く、薄いドア一枚を隔てて現れた非日常さに小学五年生の巳晴は少