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空想の、ファンタジックなストーリーを書いています。 ほんのり心がほぐれる物語たちです。 (ストーリーへのリンクページ) https://note.com/kuukanshoko/n/n4251357b90d3

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最近の記事

『ボクはハリィ!?』

 ボクはハリィ。ペットショップに住んでる。  正確に言えば、売られてるハリネズミ。ペットショップはとっても快適。カラフルなおもちゃ、お家を型どった遊び場、それにふかふかのベッド、何でも揃ってる。おトイレだって汚れたら店員さんが取り替えてくれるのさ。  毎日たくさんのお客さんが入ってきて、いろんな人がボクを見ていく。人間に飼われるのって、どんな感じなのかなぁ。ドキドキ! 全然知らない世界。ここの生活もいいけど、人間の世界もすごく興味あるよ。あ~、素敵な優しいお嬢様が現れてボク

    • 『ふたりのオリアナ』

       三月も半分を過ぎて、日差しは春の暖かさを増してきたというのに、イングランドの北部に位置するこの町の風はまだ冷たく、肌を撫でるのは暖かさと冷たさが調和された不思議な空気だ。私はアルバイト先のフラワーショップで、今日の花を店先に並べながら空の色をうかがった。千草色の空。季節との別れを惜しむような、なんだか胸をくすぐる青。  お店の電話が鳴って、店内に戻る。お花の注文だ。いつもなら店主があちこち配達に行くのだけど、今日は私が配達を引き受けることになった。こんなときは、パパの反対

      • 『格闘家、ユキ』

        ——ユキ、指名だ。準備しろ。 「私が?」  私はシステムに聞き返した。 ——指名だ。  由緒ある格闘ゲームのe—sports大会、決勝の舞台で私が指名されるなんて。  指名人気ナンバーワンは、筋肉隆々の少年格闘家、リュウヤ。そのリュウヤを差し置いて、プレイヤー1から私が指名された。  ステージに上がる。今日のステージは近未来都市ネオ香港、夜の裏路地。  私は一瞬だけ画面左上に視線をやり、表示されているプレイヤー1の名前を見た。TOSHM76。 (TOSHM76、あなたの期

        • 『牧瀬』

            三月十二日   合格発表を見に行った。   自分の受験番号は書かれてなかった。   親に電話で結果を伝えた。学校にも報告。 「何だよこれ、日記? こんなのつけてたの」 「これはね、」 「キミの?」 「うん、高校受験に落ちた時にさ、日記つけたんだ。一か月間くらい」 「そん時だけ? なんでまた」 「高校受験失敗とか、なかなか無い経験じゃない? だからさ、その貴重な日々の俺の心中を書き留めておこう、って思ったわけ」 「はぁ。受験の不合格が決まった日から? ずいぶん余裕じゃね?

          『ミハルとアミ』 本編

          「危ない!」  誰かが叫んだ気がした。だけとそれがアミの耳に届いた時には、もう目の前に車がいて、そして気づいたら意識が無かった。正確には、その後〝気づくことはなかった〟。真っ暗な世界を彷徨ったかと思うと、かなた遠くから、まばゆいほど白くて大きな大きな光が目の前にやってきた。 「あぁ、私、天国に行くんだ」安らかに・・・。「いや、待って。めっちゃ思い残すことがあるよ。このまま死ねない」  ──そなた、思い残すことがあるのか? それじゃまだ連れていくわけにはいかんのぉ。 「そ、そ

          『ミハルとアミ』 本編

          『ミハルとアミ』 プロローグ

           夏の終りの陽はまだ長く、ヒグラシの声がキキキと耳につく。確かもう午後六時をまわったはずだ。後からタクシーを降りた黒い服の母親が「こっちよ」と促す。  側面を夕陽に照らされた大きな建物。玄関のガラス扉が開かれる。いつの間にか母親に手を引かれ、一歩その空間に足を踏み入れると、効き過ぎたエアコンの冷気が首もとに貼り付いた。同時に、目に飛び込んで来たのは黒い服を着た大人たち。一様に皆しんみりした面持ち、というより無表情に近く、薄いドア一枚を隔てて現れた非日常さに小学五年生の巳晴は少

          『ミハルとアミ』 プロローグ

          『ヘビのビビ』

           急いで。とにかく走って・・・早く確かめたい。こんなこと相談できるのは、この世に一人だけ。玲香ちゃんしかいない。  ハァ、ハァ、ハァ、・・・ハァ・・・。 「どしたの? 血相変えちゃって・・・」  高校が別々になったことで、玲香ちゃんと会う機会が格段に減った。〝相談したい〟という気持ちの半分は、玲香ちゃんに会いたい口実だ。 「ていうか、」  泣きそうじゃない? と言いながら私をおうちに上げてくれた。よかった、いつもの玲香ちゃんだ。  玲香ちゃんちは一軒家で、二階に玲香ちゃん

          『ヘビのビビ』

          『月の妖精』 後編

           羽根を持たない妖精が、ひとり夜空を見上げています。ここは石の宮殿の庭。視線の先には、ふたつの妖精の影がありました。 「行ってらっしゃい、お兄様、お姉様」  ふたつの影が小さく見えなくなると、その妖精は下を向き、宮殿の外へ向かって歩いて行きました。彼にとって、夜は人目につかずに外出できるチャンスなのです。人目につくとどうしても、羽根の無い妖精だと指をさされているような気がしてならなかったから。  門番の男が気をつけの姿勢をしています。 「門番だって、僕のことバカにしてるに違い

          『月の妖精』 後編

          『月の妖精』 中編

           王宮の三つ子は、産まれて数週間のうちにサナギになり、長い長い眠りのあとに男の子が、そして次に女の子が大人の姿へとふ化しました。華奢な体に透きとおった羽根。人間の背中にモンシロチョウの羽根が生えたような、とても幻想的な姿です。だけど心配なことに、ふ化したのは二人だけ。三人目の赤いサナギは待てど暮らせど、サナギの姿で眠ったままでした。  長男の男の子が赤いサナギの様子を伺っています。その姿をシシルナが見かけて声をかけました。 「母上様、このサナギ、いつまで眠ってるつもりなんだろ

          『月の妖精』 中編

          『月の妖精』 前編

           月の光が空から降り注ぐ。白い光が全てを照らす。草も木も、遠くの山も、昼間とは違った顔を見せるその光景は、夢の中にいるような、世界がまるで絵画の中に収まってしまったかのような神秘の色で満ちている。僕の大好きな月夜の景色。  小さいころから、月を見上げることが大好きだった。月も、僕を見ているような気がした。月のまわりの星たちが、お月様を守っているように見えて、僕もいつか死んだら星になって、お月様のそばに居たいと思った。出来るだけお月様の近くに・・・。  柔らかい風が髪をくすぐ

          『月の妖精』 前編

          『月の子』

           今日は朝からテレビのニュースやワイドショーが騒がしい。大学に行く仕度をしながらチャンネルを選ぶも、どこも同じ話題を取り上げている。画面に映し出されているのは、アメリカのどこかの都市から見上げた月のライブ映像。月の表面、右下あたりに大きな黒ずみがあり、これが四本指ではあるが人の右手の形に見える。この黒ずみが一夜にして現れたというのだ。  司会の男性がコメンテーターに問いかける。 「ではもし月の地盤変動が原因ではないとすれば、宇宙人説ということも出て来ますが・・・」 「そんなこ

          『月の子』

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          空想の、ファンタジックなストーリーを書いています。 ほんのり心がほぐれる物語たちです。 <各ストーリーへのリンク> 『七色の牙』 砂漠に倒れた異国の男。 ルトゥが助けたその男は、ルトゥの大切な象〝水の使者〟を狙っていた。 『月の子』 空に浮かぶ月が月ではなくなる日、松太と椎奈が交わすささやかな会話。 『月の妖精』(前編) 『月の妖精』(中編) 『月の妖精』(後編) 一人だけ、羽根を持たないまま生まれてきた月の妖精。 空を飛ぶことに憧れを持つ人間の少年。 二人の想いが数

          『七色の牙』

          「象だ! 南東の方角に象!」  叫び声とともに、村じゅうに鐘が鳴り響いた。  村は小さな規模の集落で、石造りの簡素な建物が乾いた土地に散在している。砂漠の村──イヴォイ族の村。その中心にある塔の一番上から、見張り番が十二回の鐘を鳴らし終える頃、眼下に一人の少年が駆けていくのが見えた。ルトゥだ。日差しを遮るための白い布を頭に、そして体にも大きな布をまとっている。なびく布。その下から覗かせる、美しく引き締まった浅黒い肌。まるで空気の塊を次々と蹴り上げるように、ルトゥは軽やかに砂

          『七色の牙』