4.宵人の家(2)

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 二度童子《にどわらし》というやつだ。
痴呆老人が小さな子供の精神状態に戻ってしまうという……

「あれ? でも名前が……」

「兄貴が死んだときに変えた」

「死んだ?!」

「お前はこの世にいないやつを探してたってことだよ、マヌケ」

 芥は吐き捨てた。

「ムカつくぜ。善人気取りのお前も、あの甘ったれたガキも」

 俺はカッとなって立ち上がり、芥を睨んだ。
だが彼の眼の中にどうしようもない悲しみがあることに気付くと何も言えなくなってしまった。
となりに座り直す。

「宵人は病院から逃げ出してきたって言ってたけど……」

「あそこにはもう帰れん。逃げ出すときにひと騒ぎ起こしたからな」

「じゃあこれからどうするんだよ?」

 彼は呆れたように俺を見た。

「まーだ関わるつもりかい? いい人ごっこも大概にしろよ」

「テメエのことなんか知るかよ! だけど宵人はほっとけない!」

 思わず怒鳴ってしまった。
芥は苛立たしげにため息をついたあと、しばらく考え込んでから言った。

「格闘技の大会に出るってつってたか。宵人の世話をしたいんなら、家賃代わりに鍛えてやる」

「何でお前なんかに……」

「風呂場のこと。忘れたかい?」

 確かにあのとき、振りほどけなかったけど……
思わず真っ赤になると、芥は意地悪そうに笑った。

「あれは本気でイヤがってたわけじゃないとか? イイ声出してたもんな」

「てめえブッコロスぞ!」

 芥は不意に黙り込み、うつむいた。
しばらくしてから顔を上げ、あたりをきょろきょろと見回した。

「ココ兄ちゃん」

「ん……? 宵人?」

「どうかしたの?」

「いや、何でも。さあ、帰るか」

「今夜からベッドでいっぱい寝技を教えてあげる」

 俺が呆気に取られていると、宵人に成りすましていた芥は腹を抱えて笑い、後ろ向きにひっくり返った。
俺は怒りのあまり耳まで真っ赤になり、拳を震わせた。

(宵人……お前、なんでこんな大人に育っちまったんだよ?!)

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ほんの5000兆円でいいんです。