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凡庸と特別のあいだ(森高千里論)

凡庸と特別のあいだには 今日も冷たい雨が降る
君が笑ってくれるなら 僕は悪にでもなる

文章を書く上でただ一つの原則は、あたりまえのことをあたりまえに書くことだと思っている。狙いすぎた文章や奇をてらった文章ほど読むに堪えないものはない。

あたりまえな表現を積み重ねて唯一無二のスタイルを獲得すること。それができれば表現者として理想的だと思う。

そういう観点でいわゆるJ-POPを見た時に、最も偉大なのは森高千里だと思っている。美貌、美脚と個性的(奇天烈)な歌詞を武器に80年代後半から90年代に活躍した彼女の歌詞を子細に眺めてみると驚くほどあたりまえのことしか言っていない。

代表作「私がオバさんになっても」のみんなが知ってるキラーフレーズから引用しよう。「私がオバさんになったらあなたはオジさんよ」見事なまでにあたりまえしか言ってない。歌い出しも凄くて「秋が終われば冬が来る ほんとに早いわ」

彼女の初期の大傑作「非実力派宣言」を聴いてみてほしい。あたりまえを積み重ねて独自の世界観に至る手腕が素晴らしく、凡庸な語彙を重ねてバカな可愛い女の子を演じつつ、価値観の凝り固まった男どもを一網打尽に仕留める様はあまりに痛快すぎて、もはや革命的とさえ言っていい。

惜しむらくは森高千里の「非実力派宣言」が起こした革命を理解し、引き継いだ者が皆無であったこと。のちに宇多田ヒカル、椎名林檎といった圧倒的実力派の登場もあり、彼女の残した宣言は時代の徒花的なポジションに押し込まれることになってしまった。適正な再評価を望む。

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