ドラッグストアの薬剤師の仕事は「質より量」であるのか?
給料の高さや、「今後の調剤薬局への漠然とした不安」などから、今人気となっている就職先であるドラッグストア調剤。そこではどんな薬剤師が求められているのだろう。本当に「大変」なのだろうか。数値を用いて考察したい。
ドラッグストアの薬剤師(本稿では主に調剤に配属された薬剤師を意味する)の仕事の量と給料とのバランスは、はたしてどうなのだろうか。
国内でこれらを研究した論文はないが、海外ではコミュニティーファーマシーに勤める薬剤師の仕事量を研究した論文を集め、システマティックレビューを行った報告があるのでこれも参考にしてみよう。
これは、イギリスでの調査なのであるが、日本とイギリスでは薬剤師の仕事内容は少し異なるので、単純に比較はできないが、このレビューの結果を端的にまとめると、
仕事量が増えることへの薬剤師業務への悪影響があることが示された。
では、その仕事量の増加はどのように起こっているのであろうか。
以下、当該論文の要約より、
日本と比較しても、状況はだいたい一致するように思われる。
ただ臨床業務や処方権など、根本的に日本とは異なる。
その上で、議論を進めたい。
まず、薬剤師一人当たりの処方箋枚数の増加がどの程度なのかを調べた。
スクリーニングがわりに、AIを用いて「薬剤師一人当たりの処方箋枚数の推移」について推計を行った。
このAIによる推測データの作成にあたって、引用した情報源は、下記であるとのこと。
これらによるAIの提示する情報によると、日本の場合、一人当たりの薬剤師の処方箋応需枚数は減っていることになる。
これらの情報は「届出による計算」に頼っているので、一人当たり処方箋枚数が背制限の40枚を超えないように申告されていると考えるのが自然であるので、当てにはならないだろう。
このAIによる推測値が正しいかどうかの検証であるが、
まずは「医薬分業率」の変化を見る必要がある。医薬分業率は、根拠を提示する必要もなくすでに頭打ちになっている。
分業が進まない、もしくは後退しているのである。薬局数は減るが薬剤師数は増えているはずである。
そのため、薬局数、薬剤師数の変化をAIに求めたところ、
下表のように算出された。
確認のため、手元のRにセットしてあるデータベースと比較したところ、
手元で確認できるデータとある程度、一致した。
これらのデータにより、一人当たり薬剤師の処方箋処理枚数は減少しているという推測は、まちがいではないと考えられるだろう。
処方箋枚数の傾向が確認されたところで、ここからは、論点を、上記の論文の要約にもある項目を参考に、「会社としての業務量」と「規制や法規による業務量」について考えよう。「会社としての業務量」は、本稿で日本のドラッグストアを考える上での独自視点とする。
ドラッグストアの薬剤師の仕事を、「業務量」という視点で考えるためには、
「会社の業務」と「薬剤師の業務」を切り分けて考える必要があるのは誰にも納得いただけるだろう。
次の視点として、
「規制や法規による業務量」は特に日本の場合多く、点数算定の根拠とされる報告書類だ。これらの作成に時間が奪われる。
患者のために、処方医への情報提供を行い、それに対し点数がつく。
点数を取るために、書類という形で情報提供をする。
これらの最低限の例として、
「薬歴、情報提供書、在宅関係書類など」に加え、吸入指導時などの報告書などがある。どれもかなり時間がかかる仕事であるし、調剤を行いながら同時に作成することは難しい。
大手の一人当たりの処方箋枚数は月平均などにすると、だいたい規制枚数に収まるようにしていると思われる。ギリギリ40枚以下になるように「書類上の人員配置」(魔法)が行われているはずである。
処方箋1枚にかかる時間の報告として、薬歴記載を含めた、処方箋1枚の対応に要する時間は19分弱であったという報告がある。薬歴記載は6分ほどと計算されている。
ただし、1日40枚を処理しようとすると、1枚分で薬歴記載時間を含めて19分。40枚処理するとなると、800分である。
労働時間が13時間になってしまうのである。
ちなみに、この論文では一人の薬剤師が1日に対応できる処方枚数は20枚程度であると結論づけている。
これが、一人当たり稼働を最大化するのが大前提であるドラッグストアの調剤の凄みなのである。ようするに目一杯40枚はやらせたいのである。
ここまでが、「薬剤師の業務」である。
これに上乗せされる、「会社の業務」について、少し検討しよう。
いわゆる、ドラッグストアに勤務する薬剤師は「会社員」でもある。
その会社員としての管理業務もあるのである。
その簡単な例が、シフト作成、予算管理、報告書類、トラブル対応、取引先対応、行政対応、など、キリがない。ルーチンワークだけでなく、随時発生する業務も多い。
これらが、ドラッグストアの薬剤師の給与が高い理由になっている可能性があるだろう。
これらの状況証拠から、調剤における「質の確保」ができるのかは疑問であり、
本稿の現時点での結論はやはり「質より量」が重視されるシステムになってしまっていると考える。この状況に「質」を確保させようとすると、薬剤師はもう疲労困憊してしまうのである。
40枚制限撤廃については、私個人は反対しないが、必ずなにかしらの問題が出てくると思われる。
4000文字を超えてしまったので、続きはまた今度。
若い薬剤師ちゃんへ向けた、私なりのドラッグストア組織論については、下の記事をお読みください。