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過去の恋愛を供養したい 中学生編 後編
これ
の続きです。
三幕 惚気話は読み飛ばせ
お互いに言いたいことを言えたおかげか、私と8ちゃんは以前よりも仲が良くなった。
メッセンジャーのポココンッという通知音が鳴ると嬉しかった「帰ってくるの遅いよ」「ハンゲの麻雀に来て。パパさんと居るけどメンツ足りない」等とメッセージが来る。
そして、他の参加者がログアウトした後、2人でチャットする。そんな生活が始まった。
私は所謂スクールカースト最下層でいじられキャラだったし、あらゆる罵声や誹謗中傷を浴びてきた。しかし、普通に接していた相手から「もしかしてマゾ?」と指摘されたのは初めてだったし、背骨を突き抜けるような衝撃を受けた。
俺はマゾじゃない、そんなはずはない…!と抵抗を試みるが、冷たくされたり、責められたりする事に喜びを感じていなかったのかと問われると返答出来なかった。天性なのか、8ちゃんにすっかり調教されてしまった。
以前から機嫌が悪い時には「キモ」とか「うざ」等と冷たくあしらっていた8ちゃんだが、わたわたと慌てる私を見て楽しんでいた部分もあったらしい。ひどい。プレイじゃんそれ。でも嫌じゃなかったでしょ?と問われゴニョゴニョしてしまい、言い逃れできない状況を作られていた。
冷静に考えてみれば、かなり理不尽な扱いを受けてきたかもしれない。誘われてゲームやチャットを始めるが、明らかに不機嫌な時があり、こちらがひいひい言いながら機嫌を取ろうとするも変わらず。
「ごめんね、じゃあ俺は寝るね…」と立ち去ろうとすると「は?なんで?」「私と喋ってても面白くないから寝るんだ?あ〜おやすみ」等とこちらを刺激してくる。もぉ〜そうじゃなくて〜…と構うが不機嫌は継続し…とループを喰らっていた。ハメだ。そんなのが日常茶飯事だった。
そんな救いのないループを喰らっていた私だが、時折見せる8ちゃんのかわいらしさにすっかりやられていた。正しい意味でのツンデレである。
(当時、なんとなくツンデレという概念は存在していた。言葉の初出は2002年くらい?のはずだが、単語は浸透はしていなかった。ヒロインあるあるネタの一つくらいに捉えていた。)
8「はぁ〜もう馬鹿じゃん」
8「毎回こんなにわがまま言うのにさ」
8「なんで毎回そんな優しいの?」
8「ばか」
8「もうちょっと、しゃべってたい」
8「寝ないで」
8「ごめん」
8「寝ちゃった?」
8「あぁもう…」
8「いつもごめんね…謝るから…」
あー…
くっそ…
くそかわいい…
時刻は午前3時を過ぎていた。最近はほぼ毎日のように、この甘い串刺し刑みたいな仕打ちを受けていた。寝不足も重なり、脳は軽いトリップ状態だ。いくら中学生とは言え、睡眠時間を削りすぎた。所謂共依存というやつか、危険な状態だった。
「ごめん、気絶しかけてた。起きてるよ」
8「はぁ?」
8「寝たふりしてた?キレそうなんだけど」
「いいよキレて。聞いてるから、ずっと」
8「はぁーーーーーーーー?イケメンが言えよそういうセリフはよーーーーーーーーー!ばか!あーーもう…くそ!優しいな!!もぉ!もぉーーーーー!!」
へっへっへ…
zzz…
8「おい!カッコつけて即寝落ちすんなよ!恥ずかしいだろおい!てめぇおい!」
四幕 誰かの傘になりたい
ーーこの夜更かし通話が当たり前になる少し前の出来事。8ちゃんは毎回遅くまで起きていて、私が音をあげて寝るパターンが多かったので質問した。眠くないの?俺は日中眠すぎて学校で寝ちゃってるんだけど、8ちゃん起きていられるの?と
8ちゃんは何かを迷っていた。
8「あーそういえば、カウンセラーとか目指してるんだっけ?じゃあ言ってもいいかな…」
前に身の上話をした時に伝えていた。私は幼少期に母が死んで、人が死ぬって何だろう、心って何だろうと考えるようになった。そして精神面の傷とか、疾患に関心を持った。メンタルをやられた人や……または自分を……救えるようになりたい。人の心が何かを学ぶために心理学を学んで、カウンセラー的な仕事を出来るようになりたい。そんな話をしたことがあった。よく覚えているな。
8「実はうちさ、学校行ってないんだ」
8「駄目だよね、行かなきゃ。嫌なんだよね、すごく」
!!?
自分には108億個の悪癖があるが、そのうちの一つ「精神的な悩みや症状に悩む相手を放って置けない」
すっかりスイッチが入ってしまっていた。カウンセラーを志す者が、目の前の相手を何とかできなくてどうする、と。興奮状態だったと思う。勃起していたかもしれない。一旦自身を落ち着ける。
ーープロの真似事したって駄目だ、治療や対処は8ちゃんもしている筈だ。自分がやるべきことを考えろ。俺は彼女にとって数少ない友人の1人かもしれない。責任もて。人生は命という一枚のチップを賭けてどうのこうのとゲーム会社の社長が言っていた。俺は賭けよう。ネカマがどうのとか、真意はどうでもいい。仮に全てが嘘だったなら「不登校に悩む中1女子は居なかったんだね…」と言いながら消滅するだけだ。『この相談が真実であり、俺は一友人として出来る事をする』オールインだ、賭けるぜ海馬瀬人!ーー
私は一友人として、正直に感じた事を伝えた。
・俺も学校は楽しくないし行きたくない。将来のために行かないと不安だから行ってる。
・行きたくない、と意思表示してるのは凄いと思う。俺は嫌でも我慢しちゃう。そして狂うんだと思う。
・行こうとしてるのもえらいと思うけど、学校に行かない選択肢もあるし、それを選んでもいいと思う。
・ただ、学校に行かないことで消える選択肢もある。後から取り戻せる部分もあるだろうけど、時間のロスは大きくなる。それは考えないといけない。
・悩んでいるのであれば力になりたい。ただ、俺も同じ中学生なので大したことはできない。とりあえず、なんかして遊ぶ?
8「あー」
8「やっぱり優しいね。…夜更かしになるかもよ?」
「手加減してくれないんだ…」
これまで後ろめたさがあったのか、不登校のカミングアウトをしてからは今まで以上に8ちゃんの押しが強くなったというか、チャットの頻度が増えていた。「そろそろアカウントじゃなくて名前で呼びたい」「声聞きたいから通話したい」等。ゴリ押されていた。
初めての通話の時は、自分でも驚くくらい緊張して震えてた。ボタン押す直前までヘラヘラしていたのに、指をかけたらおててプルップル。
〜初めての通話時の様子〜
8「はい…」
星川「あの…」
8「はい……w」
星川「星川です…けど」
8「…知ってますけどw」
星川「緊張するんですけど」
8「緊張しすぎですね…」
星川「声かわいいっすね…」
8「ストーカーみたいになってますけど…」
星川「あの…緊張しすぎて…呼吸……やばいんで…一旦…かけ直していいすか……」
8「え…w不審者ですかwww緊張しすぎでしょwww」
星川「切ります……」
ー文字チャットに移行ー
「ふぅ」
8「ふうじゃねぇよwwwアイドルと通話するおっかけかよwwwそんなに緊張する?www」
「声がおっさんじゃなくて動揺してた。テンション低めのかわいい声ですね。良かった」
8「気持ちわりぃなコイツ。知らん相手なら通報してたぞ」
「いや〜言うて8さんも緊張してませんでしたか?歯切れ悪かったっすね?」
8「は?」
ー8さんが音声通話を開始しましたー
「ごめんなさいごめんなさい!ほんとすみません!」
8「面白いから今後は音声通話にしようかな〜」
基本的には主導権を握り強気な8ちゃんだったが時折、「明日はどうしても学校に行かなきゃいけない」「本気で嫌だどうしよう」と発作のようにパニックになっている事もあった。
私は極力話を聞いて、全力で思いつく限りの助言をした。そんなある日
8「ごめん、やっぱりマジで不安だ。なんか楽しい話して」
「えっ?!……
あ、マインスイーパーで2手目で死んだ写真送るわ!(スクリーンショットを送る)励まされない??」
8「おまえ人が本気で悩んでる中マインスイーパーしてた?」
「いや、なんか和ませる方法ないかなと思って…よく見てよ、難易度最大でめっちゃマス多いのに、2クリック目で死んでるの…こういうこともあるよねって…だから…」
8「本気でキレていい?マインスイーパーで励ますやつ居る?」
「いや、本当にごめん…会話の引き出しなくて…焦ってパソコンいじったらマインスイーパーあって……ごめん…」
8「ぐっ……
駄目だ……ごめん、笑うの我慢してたわ…悔しいけど笑っちゃったわ…」
「(無言でめっちゃ笑顔になる俺)
8「おまえ今パァァって笑顔になってない?調子に乗るなよ?なんで私マインスイーパー即死画像を前にキレてるんだろうって気づいて笑っただけだからな」
8「前に、学校行くの本当は嫌だって言ってたじゃん。そういう時何考えてるの?」
「基本的にはずっと格ゲーのこと考えてる。ギルティギア。難しくて勝てない。昨日の試合内容の反省と練習課題を整理しているだけでもかなり時間がかかる。その時間がまた楽しい。内容を見直すためにノートも作ってる。見る?俺が使ってるのロボカイってキャラなんだけど、強みが特殊ゲージの運用だからかなり考えること多くて、一度にやろうとしても無理だからまず優先度をつけるじゃん?これは相手キャラとの相性によっt
8「あーごめんもういいわごめん。地雷踏んだわ。格ゲーの話は止まらないから駄目だわ。ごめん。
ん?さっきのスクショ…なんか…えっちな画像映ってない…?」
「は?!えっちなゲームなんて持ってませんけど??!やめて頂きたいんですけど!!」
8「動揺しすぎだろ。なんか…目隠しされたちっちゃい女の子映ってない?うわー…出た。正体表したな変態野郎。そういう趣味か。ロリコンのドMなのは知ってたけど。これ◯学生くらいの子でしょ?これを調教するの?アウトだわ。あーやべぇもん見たわ」
「それは全年齢対象のフリーゲームです!!!登場人物は成人しているもしくは人間じゃない別な種族です!!!!」
8「今までに聞いたことないくらい声でけぇな。駄目なやつの言い訳だろそれ。流石に言い逃れできないって。なんでこんなちっちゃい子が目隠ししてんだよ。えっちな目的じゃなくて何だよ?」
「ロシアンルーレットです!!!銃の引き金を引く前だから震えてちょっとチビって漏れてるだけですけど!!!!大人でもこうなると思いますけど!!??」
8「ん?ごめん、わからん。何?ちっちゃい子に目隠しして銃撃たせてるの?何??」
「じゃあURL貼りますよ!!フリーゲームですから無料でDLできます!!
良いですか?!引き金を連続で引くごとに賞金は跳ね上がり、弾倉をリセットすると倍率がリセットされる。死にたくないと震えながらも、賞金をあげないとランキングには載れない。そしてドロップアウトしないと賞金は受け取れない。泣きながら額に銃を当てる女の子はプレイヤー自身とも言えるんです。死にたくないけど引き金を引かないと進めない、安全に行きたいけどちまちまやってると、『1発目に弾が入っている』パターンをいずれ引いて死ぬからどこかで連続で引き金を引きたい!リスクを負わない方法は無い!そんな葛藤が生の美しさと死の悲しさを際立てる、芸術的な、綺麗なゲームですよ!!えっちな要素がどこにあるんですか??!」
8「いや、おっさんのキャラで
「はぁ?!」
8「えっ怖…
(ゲームを確認)
うわ〜…本当にエロゲじゃなかった……いや、エロゲだったほうがマシかもしれない…うわ〜…何これ…」
8「ごめん、なんか学校がどうのとかどうでも良くなってきたわ。早く寝て明日は学校いくわ。ありがとう。なんかここに居る方がやべぇ気がしてきた。あと、私が言えた立場じゃないけど、あなたもカウンセリングとか受けた方がいいよ。狂いかけてるよたぶん。おやすみ。夢見そうだわ。あー怖かった」
「えっおいちょっと
例えるならば、私は傘のような役割でありたい。雨が降った時、陽射しが強い時、困難を和らげ側にいる。晴れたら、傘を置いて自由に活動して欲しい。その時傘があったら邪魔だろうから。それでいい。私は傘になりたい。
8「そのキモいポエム、あのゲーム見た後だと本当に怖いからやめて欲しい。今後はちょっと距離置きます。おやすみなさい」
「あ、まだ居たのね。誤解してるって。大丈夫だから。おやすみなさい」
距離が近い故に生じる誤解。それは対空判断のように難しい。大K対空の距離で放った昇龍はあなたには届かないのだ。ポエムセンス×の特殊能力を持ったZ選手星川、明日は来るのか?!
次週、いよいよ完結、中学生恋愛編Zスペシャル!来週も星川と地獄に付き合ってくれ!!
完結編へ続く