俯瞰を思い出して

私が住んでいる街は、東京二十三区内ではあるが、その中でも住宅街しかないような、郊外とあまり変わらないような街である

だからなのか、小さい自動車販売所や自動車点検をしている工場が周りに多い
今日、スーパーから重たい荷物を抱えて戻ってくる時に、自動車の整備所の中で洗車機が動いているのが見えた

洗車機のブラシが水しぶきを撒き散らしながらぐるぐると回っているのを見て、なぜかとても懐かしい気持ちになった
そういえば、小さいときからガソリンスタンドで車の中に入ったまま、窓から洗車されている様子を見るのが大好きだった
洗車機のブラシが迫ってきて、窓にぶつかりながら回るブラシの様を見るのがなぜかよかった

たぶん、自分は守られた状態で、天地がおかしくなったような、ぐちゃぐちゃの風景を見るのが好きだったのだと思う
似たような感覚は洗車以外でも体験できた

高校卒業時に、千葉の房総半島にいった時にフェリーに乗った
行きはからっと晴れて穏やかな旅路だったが、帰りのフェリーに乗った時はとても海が荒れていて外に出られないほど船が揺れていた
行きとは見える景色がまったく違って、灰色の波が窓にぶつかって、引いて、またぶつかるのが見えた
もちろんその荒れ模様なので、厳密には安全が約束されていたかと思うとわからないが、その当時の私はどこか他人事のように悪天候を見つめたことが、なんだか面白かった
(一緒にいた友人を含めて、乗船していた人々はちらほら船酔いをしていた)

映画などでもその感覚を感じる時がある
ジブリ映画の「ラピュタ」で、天空のラピュタに向かうときに、雷が鳴る悪天候の中向かっていくシーンがある
そのシーンをみると、洗車機の中に入っているときや、フェリーの中から大荒れの波をみていたときのような感覚に陥る

そんなことを思いながら、去年の十月に大きな台風がやってきたことを思い出した
近年で一番くらいの大きさとニュースで報道され、こぞって窓に養生テープをみんな貼っていたときのことだ
台風が直撃した当日も、風によって大きなものが飛ばされたような音を聞きながら、他人事みたいに、俯瞰して地球を見ているような気持ちになったことを思い出した

なんだかその状況がとてもおもしろく思えた

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