友近さんファンが一人前になる時
口調や口癖、言い回しなどというのは、尊敬している人のものを自然と真似てしまうらしい。
例えば、長嶋茂雄監督から手取り足取り指導を受けた選手は、
「ポーンとボールがこう来たらね、バーンと打ったらいいから」
というセンス丸出しの擬音だらけの指導の口調を、自然と真似てしまうらしい。
憧れが強いからこそ、バッティングフォームのみならず、口調までも身につけてしまうものだそうだ。
たまに、喋り方が本当にそっくりだな、と思う親子がいるが、それはきっと子が親のことを尊敬しているんだろうなと思う。
私は、器用な人への憧れが強い。
手先の器用さではなく、何でもすぐ自分のモノにしてしまうような多彩な人のことを、私は器用だな、と感じる。
私は、日本人女性の中で一番器用なのは友近さんだと思っている。
芸歴50周年を迎えた演歌歌手の水谷千重子。
ブライダルコーディネーターの児玉るみ。
ソーセージ販売員の吉山外子。
友近さんにはあらゆる人格が憑依する。
高齢者アルバイター、ピザキャップの電話オペレーターの西尾一男もそうだ。
「はい、もしもし。ピザキャップの西尾一男でございます。」
「ハーフアンド、、?半分別個のやつやね。
右海鮮の左かしわで段取りさせていただきます。」
「寸法はどないしましょ?M寸とL寸とありますけど。
はいはい、ほなM寸で段取りさせていただきます。」
ピザキャップの西尾一男は何かにつけて段取りしている。
私は、美人で色気があるのに、西尾一男というおっさんをも完璧に演じ切る器用な友近さんに憧れている。
ところで、私は金融機関に勤めているが、新人の頃は言葉も常識もよく知らずに苦労した。
融資課の人たちがよく「実行」って言ってるけど、誰が何を実行するのか謎だった。
「抵当権設定登記」なども、教えてもらうまで何のことかさっぱり分からなかった。
住宅ローン絡みでハウスメーカーから外構工事についての電話を受け、「がいこう違い」で外交官から電話がかかってきたと思って、とにかく今ここで一番偉い人=支店長に即座に受話器を渡そうとしたこともある。
自分が知らなかったことが多かったので、お客さまとお話しする時は専門用語をできるだけ使わず、別の分かりやすい言葉に置き換えるように心がけている。
「お話していました自動車ローンの件ですが、今週末に納車ということでしたので、金曜日にはディーラーさんのお口座にお車代金を振り込みするように段取りさせていただきますね。」
実行という言葉は使わない。
「住宅ローンのご利用に際して、ご自宅を担保に取らせていただく手続きを、司法書士が法務局で段取りいたします。」
抵当権設定登記という言葉は使わない。
「書類をご自宅に郵送するように段取りしておきますので、ご確認ください。」
とにかく専門用語は使わない。
「簡易書留でのお届けになりますので、お受け取りの際は印鑑かサインの段取りをお願いします。」
とにかく分かりやすく丁寧に。
「ご不在の場合は不在票が郵便受けに入るかと思いますので、郵便局に再配達のご連絡の段取りをよろしくお願いします。」
とにかく段取りを。
「ご不明点がございましたら、お電話でお問い合わせいただければ、いつでも段取りさせていただきます。」
友近さんに憧れる私は、一生懸命段取りをしている。
いつか、私に憧れた後輩がやたらと段取りをする時が来たとしたら、私は本当の一人前になれたということだろう。
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さて、次回の #クセスゴエッセイ は
「餃子の王将に胸キュンはある」
をお届けします
お楽しみに〜
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