こねくり回してドーン
わたしが20代後半の頃所属していた職場には、3人の後輩男子がいた。
彼らと餃子の王将に通ったおかげで、スタンプカードがよく貯まった。
「オイオイオイ」とツッコミどころ満載だったりもするが、三者三様っぷりがかわいい。
「食べちゃいたいぐらいかわいい」とはよく言ったものだ。
長男は中華鍋で炒めて、次男はグリルにして、三男はカリッと揚げてやろうと、食べ方まで決めていた。
中でも一番かわいいのは次男のごまもち(仮名)。
わたしが入社6年目の春に、ごまもちは新入社員として同じ支店に配属された。
歳の差は5つ。
わたしが小6の時、ごまもちは小1。
わたしの母校では、6年生と1年生、5年生と3年生、4年生と2年生、それぞれが同盟を結ぶ「兄弟学級」という制度があった。
上級生が下級生の面倒を見る。
兄弟学級で遠足に出かけることもあった。
6年生の時に繋いだ1年生のお手て。
小さくて可愛かったな。
後輩三兄弟はタイプがまるで違う。
よく怒られるけど受け流すのが得意な長男。
持ち前の明るさと人懐っこさで何でも器用にこなす三男。
その二人に挟まれた次男は、内気だ。
しっかりしていて色んなことに考えが及ぶから、がむしゃらに走ることができない。
次男はいつも悩んでいた。
思い切って飛び込んで行くことも、周りに甘えることも苦手。
わたしはごまもちの悩みが手に取るように分かる。
これは、まるでアレみたい。
海の中の不思議な生物。
1cmぐらいの小ささで、心臓が透けて見えるほどスケルトンになっていて、短いお手てでピヨピヨと泳ぐ生物。
この生物は二つに分割されても生き続けることができる。
トカゲの尻尾が再生されるより、もっとすごい。
一つの生命が二つに分かれて別の生命として生きていく。
はっきり言うてアレ。
何やったかな。確か、、
クリオネ。
(たぶん違う)
わたしとごまもちは、たまたま今は二つに分かれているが、元は一つのクリオネだった。
「うちらはクリオネやからな」
「やっぱりクリオネですね」
わたし達はお互いに悩みを共有する度に、クリオネとしての自覚を高め合った。
ごまもちが営業担当になって間もない頃、大きな仕事を担当することになった。
「どうしたらいいか分からない」と不安そうなごまもち。
チームみんなでアイデアを出し合い、何とかがんばって計画を立てる。
そして、並々ならぬ努力により、一人で立派にその仕事をやり遂げた。
本当はナデナデしてこねこねこねくり回したいぐらいだったが、時代が時代なので、肩と背中をぽふぽふ叩くに留めた。
慰労会としてチームで飲みに行くと、照れながらも達成感に満ちた表情のごまもち。
「目に入れても痛くない」とはよく言ったものだ。
わたしが今朝鏡の前で目に入れたのは、コンタクトレンズじゃなくて、ごまもちだっただろうか。
当時、20代後半だったわたしは女子会全盛期。
職場のいつものメンバーで飲みに行く雰囲気になっても、「今日は地元の友達と女子会あるんで」とさっさと職場を後にすることもあった。
残業を終えた金曜日。
その日、チームのメンバーはほとんど先に退社していた。
今週も一週間疲れたなと机を片付けてキャビネットに書類をしまう時、もっちゃり近づいてくるごまもち。
小声で声をかけられた。
「今日女子会あるんですか?」
ごまもちの方から飲みに誘ってくれることは珍しい。
2人で歩いて隣の駅のいつもの餃子の王将をめざす。
自転車通勤のごまもちは、隣でキコキコ自転車を押しながら歩く。
遠足の時はあんなに小さかったのに、こんなに大きくなって。
金曜のビールとコーテルは最高だった。
その翌週告げられた。
「僕、結婚するんです」
ほぇ?
元カノと別れて、半同棲していた家も引っ越した、という話を聞いたのはそんなに昔じゃなかった気がするが、いつの間に?
遠足で手を繋いでいたごまもちが、
元は一つのクリオネだったごまもちが、
毎朝目に入れているごまもちが、
結婚。
ごまもち、よかったね。
ナデナデ。
こねこね。
こねくり回してドーン!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
さて、次回の #クセスゴエッセイ は
「童心の機微」
をお届けします
お楽しみに〜
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?