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水平線に南十字星を求めて

南十字星をみてみたい話。

ここにしかないモノ

 石垣島滞在も残りわずかになった。

 わずかになってから思う。

 「もっと、いろんなことをやっておけばよかった。」


 ここにしかないモノがある。

 帰ってしまってからは、手に入らないモノがたくさんある。

 忘れ物があると。

 また、

 取りに来なければ

 ならなくなってしまうじゃないか。

南十字星をみる方法

 南十字星をみたかった。

 いつか見ることができるだろうと思っていたら。

 結局、見る機会がないままに終わってしまう。


 これはまずい。

 そう思って、そそくさと、南十字星を探しに行った。


 すぐに見れるのかと、安易に思っていたが。

 実際はそんなに簡単ではない。


 見える時間が限られる。

 南中時刻を外すと、見ずらい。

 雲が出ていると見えない。

 月がきれいすぎると、見ずらい。


 真夜中に、水平線に近いところにみえるらしい。それだけで、けっこう見るチャンスの少ないものであることがわかる。

 もっと早く、トライしておけばよかった。

真夜中の観音崎灯台

 午前0時に起きだして、クルマを走らせた。真夜中の観音崎灯台を目指して。

 観音崎灯台は、石垣島の南西の端にある灯台。港に近いと明るくて見えずらいと思ったのだ。 

 コロナのせいで繁華街も人がさほど多くはない。当然のことながら、そんなご時世に、街から離れた灯台に、わざわざ真夜中に訪れる人物など、だれもいなかった。

 とにかく、あたりは真っ暗でだった。遠くに港の明かりが見えたり、沖に漁船の光が見えたようだったが、クルマのライトを消してしまえば、自分の足元も見えなかった。

 真っ暗だ。

 お化けでも出てきそうだが、それは結局35年の人生でまだみたことがない。

*****

 南中時刻は、0時過ぎだ。月が出ていなかったので新月なのかと思ったが、月は夕方にもう沈んでいたようだった。雲もさほど多くはなさそうだ。状況としては、悪くはないようにみえる。

 もう見えてもいいはずなのだが、星座を探すこと自体に慣れていないので、そもそもパッと見ただけではわからない。

 コンパスで真南を確認し。

 その方向の水平線にじっと目を凝らした。


 …あっ、これか。

 『南の水平線に、見えた。特徴を持った4つの星。

  4つの星が、きれいな十字を描いていた。』

 と、書きたいところなのだが、実際にはそうではなかった。


 十字の下の星が、薄雲に隠れて、見えなかった。

 一番水平線に近い星だったせいか、本来は4つの中で一番明るい星なのだが、まったく見えない。

 残った3つの星が、小さな△を南の夜空に描いていた。


 なんとしてもみてやろうと、30分ほど。

 真っ暗な闇の中で目を凝らした。


 だけど、結局、その星は見れなかった。

 一瞬だけ、4つの光をみたような気がしたが、それが気のせいだったのかどうかも、わからなかった。


*****

 真上の星に目を向けると、それは本当にきれいだった。

 自分も知っている、オリオン座や北斗七星が、普段はみえない小さな星々に埋もれてわかりにくくなってしまうくらい。夜空には星が満ちていた。

 これくらい星が出ていれば、それらの点と点を、結んで絵でも描いてみようかと、思ってもおかしくなさそうなものだ。


 明日からは、天気が悪くなって星は見えないらしい。

 しかたがない、南十字星は、次回の楽しみとしよう。


 またいつかここに戻ってこよう。


 そう思って、静かに、真夜中の灯台を。

 立ち去って行った。


___

 

 

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