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あの日のわたしと歩く浜辺
撰石積記 voL.17 ~失ったココロを取り戻す旅路~
昔は、こんなのが好きだったんだよな…。という話。
夕刻、米原海岸の干潮
ひとしきりの仕事を終えて、仮宿に戻ってきたのは、17時半ごろだっただろうか。マックスバリュで買った食材をクルマの後部座席から取ろうと、クルマを降りた。その時に、ふと気が付いたことがあった。
海鳴りが、おとなしいな。
ここのところ、天候が悪かった。風が吹きすさび、ゴーゴーという海鳴りが、聞こえていた。遠くの方から、耳障りなほどに。
それがおさまったように感じたのだ。
(ちょっと、みにいってみるか。)
思い立って、300mほど先にある海岸線を目指す。夕刻の道をトコトコと下って行った。
*****
浜に通じる林の中の小道を抜けようとしたとき、木々の間からみえた海の様子がいつもと違っているのに気が付いた。なんだか海が遠く見える。
その理由がわかったのは、林を抜けた瞬間のことだった。
そうか、潮が引いていたのか。 波打ち際が遠い。
いつもは、朝の時間にここに来るからわからなかったが、海だから当然のこと。潮の満ち引きがある。
知っていたはずのことではある。とはいえ、そんな当たり前のことでさえ、普段に海をみない生活をしていたせいだろう。
なんだか、不思議と。
自分にとっての特別な何かが
起こったような気がした。
小さな潮だまりの中の小宇宙
もう10回くらいはここに来た。それでも、潮が引いていたのは今回が初めてだった。うれしくなって浜を散策し始めた。
散策というよりは、もはや探検だ。
浜の西側は、遠くにキャンプ場と通じていて、人の気配があるし、これまで散歩がてらにいったことがあった。一方、東側には行けていなかった。岩場になっていて歩けないからだった。
ただ、その時は違っていた。
潮が引いていたから、いつもは海になっていた部分が歩けるようになっていたのだ。
こっちにいってみよう。探検の始まりだ。
*****
サンゴ礁が隆起した部分が、波に削られたようにみえた。削られた部分が壁のようになる脇を、歩いて行った。時々、浅くなった海の中を歩く必要があった。クロックスを履いてきたのは、出目がよかったようだ。
途中に潮だまりができていた。
岩のくぼみに海水が溜まっている。
そのなかに小さな切り取られた海があった。
巻貝が転がり、小さなハゼの仲間が泳いでいる。
よく見れば、ヤドカリもいた。
岩の隙間には、大きなはさみのカニがいて、こっちをみている。
ついでに、黒いブニョっとした生き物(?) がいた。なんだこれは、もしかして、ナマコか。
ちらっと見たときは、岩場の大きな水たまりにすぎなかったのに。
よくみると、なんと賑やかなことか。
なんだか、うれしくなって。
しばらくの間、その小さな海を覗き込んだ。
わたしだけの海岸
この時間に限らず、海岸には人がいない。
観光客が多くなればそんなこともないのかもしれないが、いまはコロナのせいもあるのだろう。航空便も少なくなっているというのだから、ひとがここまで来ないということもあるはずだ。
*****
なんとも贅沢なことだ。
これだけの浜辺を貸し切りにしようと思ったら、いったいいくらかかることか…。この贅沢をずっと楽しんでいたかった。
あの日のわたしと歩く浜辺
山や、海で。
遊ぶのが好きだった。
夏はセミを捕まえて遊ぶし
海に行けば、父が釣った魚を物珍し気にみたものだった。
こういうの、好きだったな。
いつの間に、離れていったのだろうか。
家の近くに、自然の造形物を楽しめる場所はいくらでもあるのに。
こうしたココロの余白に置いておきたかったものを、捨ててしまったのだろうか。おとなになっていく途中に。
*****
誰もいない海岸の波打ち際を、足を濡らしながらバチャバチャと歩く。
ふと、となりに誰かいるような気がした。
息子のような、笑う顔が、似合う少年。
まるで、あの日の。
自分のようだった。
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