『源氏物語』の「ゲの字」も読んでいないのに……
再来年だか、紫式部が大河ドラマの主人公になるとか。ところで私たちは紫式部について、『源氏物語』についてどれほど知っているでしょうか。
「『源氏物語』って源頼朝の話でしょう」と言われたことがあります。
「外国人に、もののあはれとか分かるでしょうか」と聞かれたことも。
私は「どうでしょうね」と受け流し、心の中で「私は日本人だけど未だに分かりません」とつぶやくしかありませんでした。
源氏を読んでいる外国人というのは日本古典研究者であり、私たちとは比べられないほど研究を積んでいる人たちのことなのです。「ゲの字」も読んでいないその辺の日本人とは違う、原文で読んでいる研究者たちなのです。
外国人の心配をする前に、自分は『源氏』の「ゲの字」も読んではいないことを認識するべきだと思うのです。
『源氏物語』や『紫式部日記』を一行も読んでいない人は、ドラマを観る時は「歴史に素材を取ったファンタジー」「韓流時代劇みたいなもの」と思って観たほうがいいのではないでしょうか。
ドラマが始まらないうちにそんなことを言うと脚本家の方にとても失礼だと、ここでお詫び申し上げます……。もちろん素晴らしいドラマだったら、嬉しいし、それを期待しています!
紫式部が「世界の偉人の1人」に選ばれていることは素敵なことです。それを誇りに思うのはいいのですが、彼女が誰の娘で、誰がパトロンだったか、また『源氏物語』に登場する女性の名前の1人も知らないで、「紫式部は日本の誇り~」と自慢に思うのは、「井の中のかわず」でしかないと思うのです。
かつてテレビで流行りました。外国人を集めてコタツに入れたり、お寿司を食べさせて、「日本ってすごーい」と言わせる番組が。彼らはギャラをもらっているから、指示されたように言うのだと思います。
世界中の国には、その国固有の美味しい食事があり、文化があり、文学があり、『源氏物語』もその一つなのです。日本の古典を学ぶことは、他国の古典をも、文化をも大切に思うことに繋がる、と私は確信しています。
テレビの情報番組で、「この美しい晴れ着をもう一度着たい。その一心で生き抜いて日本まで来ました」と涙ながらに語るウクライナの女性を見ました。戦禍の故郷から日本まで持ってきた一枚の晴れ着、その美しさ……。
『源氏物語』もそういう文化のひとつではないかと思いました。源平争乱、応仁の乱、江戸幕府崩壊、第二次世界大戦、軍部の迫害など多くの戦禍を乗り越え、今に残っている。だからこそ、素晴らしいのだと……。