台風一過、ノラちゃんは……
昨日は植木鉢を室内に入れ、物干し竿を片づけ、バスタブに水を張り、雨戸のない2階の出窓をビニール袋で目張りし、ご飯を沢山炊いておにぎりにしておいた。
庭の木々を伐採しておいて本当に良かった!
すべて私が独りでやった。こんな時、男手が欲しい。
家には夫がいる。だが長い人生の中、私は夫が何ひとつ当てにならないことを知り尽くしている。
世間では通常男のすることと思われていることををすべて私が取り仕切ってやった。
「ダンナさんを立てていない」とか「あなた、オトコみたい」と言われたこともある。
事情を知らない人に何と言われてもけっこう。
「あなた、オンナみたい」と言われるよりはかっこいいじゃないの。
私はオトコみたいに生きざるを得なかったのだ。今では自分がオトコかオンナかよく分からない。
私はもうあきらめている。こんな夫を持ったのが運の尽き。これが私の宿世だったのだ。
それでも、作っただけのおにぎりをムシャムシャ食べられたときは絶望で目の前が真っ暗!
おにぎりを隠した。もしも停電になった時の備蓄だということも分からんのか、おぬしは。
不安を分かち合う人もいない。何となく悲しい。姉や娘に電話する。いろいろ雑談して、話を聞いてもらって少し気が軽くなった。
時々、家の庭を走り抜けるネコちゃんはいまごろどうしているのだろう。
心配しながら寝入った。
朝、眩しいほどの晴天。避難することも有りうると思って大きな袋に入れていたパソコンを取りだし、机の上に置く。
ふと見ると硝子戸の向こうにあのネコが!
あの子、無事だったのだ~。
削り節を縁側に出す。ネコは脱兎のごとく逃げ出したが、しばらくして戻ってきた。
私はネコを怖がらせないように音もたてずにいた。
ネコは削り節を食べ始めた。
小さな袋一個分。
これで、なついてくれるかも。
ネコが飼いたい。優しさの通じ合える生きものに傍にいて欲しい。
娘もいない。可愛がっていたネコもいない。夫はひたすら物を食っているだけだ。
ネコちゃん、明日も来てね。また、削り節あげるから。あなたさえ望むなら、外ネコにはしてやれるよ。
避妊手術して、食べ物を上げるぐらいなら、まだ、できるよ。
ネコは私を見て言った。
「勝手な親切、余計なお世話。食べ物だけ、食べに来てやるよ」