私の記憶鍛錬法
医療関係者は否定するだろうが、点滴による抗がん剤治療はすべての人にではないものの、脳にダメージを与えると思う。
それほど強い薬なのだ。
外見のダメージと違って脳へのダメージは証明できないし、
「もともと頭が悪かったのでしょう」と言われると返す言葉もない。
「年齢のせいで誰でも脳が衰えますよ」と言われると、頷くしかない。
しかし、私は自分は脳にダメージを受けたと確信している。
見た感じや、ちょっと話しただけではわからない。だが、本人が一番わかっている。
著しい記憶力の低下は、本来の頭の悪さでも年のせいでもない、抗がん剤の副作用だ、と。
医者に訴えても仕方がない。
医者はマイナス情報は認めない傾向にあるから。
で、私は自分なりの「記憶力アップの訓練」をすることにした。
童謡歌集を買ってきて、毎日、昼と夕方に歌っている。
自分で見つけた方法だ。
「夏は来ぬ」を一字も違えず、一番から5番まで歌うことがこれほどむつかしいとは思わなかった。
「卯の花」「橘」「棟」「くいな」「蛍」など登場する言葉がやたら多い。おまけに私はどれも見たことがないのだ。
遠い昔、見たことはあるのだろうが、記憶としてはここ20年以上、見たことがない。
卯の花は、昔、上高地に行ったとき、見たような気がする。クイナは知らない。蛍は、これも昔昔、近所の蛍の会、の人に誘われて、田んぼに探しに行ったことはあるが、蛍には出会わなかった。
つまり、現実とは遠い光景を歌っているのだ。
歌の情景を想像しながら、
一字も間違えず歌えるように、毎日、練習している。
それが私の記憶鍛錬法だ。
最近、ようやく「夏は来ぬ」を間違えずに歌えるようになった!
「村の鍛冶屋」や「「われはうみの子」は歌っているだけで映像が浮かぶ。
「五木の子守歌」は歌っているだけで悲しくなる。
多少、歌詞を間違っても、歌には何か強く脳に訴えるものがある。
それが記憶の鍛錬法になっていると私は信じて、
毎日、お昼と夕方、大きな声で下手な歌を歌っている。
近所の方にはすごい迷惑だろうと思いながら……。
終わり