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カタカナ誕生(ショート・ショート・ストーリー・5)

麗らかな春の朝、奈良の都のとある寺、近くの村の長が僧に文を送ってきた。あいさつ程度に近況を伝えるものだった。

「漢字の読み書きもおぼつかぬ身で、ここまで文字を書くとは」僧はちょっと驚いた。

漢字の形は崩れ、間違っている。文字を拾って読んでも意味が通じない。それでも、懸命に書いていることが伝わってくる。

「正しい漢字ではないが、書きやすそうだ。『朝乃光』と書くべきところ『朝ノ光』。『橋遠架計天』と書くべきところ『橋ヲ架ケテ』。漢字の一部を使って、簡単な形にしているのじゃな」

僧たちは経典の文字の横に、この簡略文字を「ふりがな」として書き添えるようになった。

「漢字の片方を使っているからカタカナと呼ぼう}「公の場では見せられぬ。漢字も読めぬのかと見下げられるからのう」

しかしカタカナは寺から貴族たちの間に流出していった。仮名(今の平仮名の先祖)誕生にはまだ数百年の歳月が必要であった。


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