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突然の砲撃や人々の平和の祈りが

深い内省へと導く、名演の応酬  吉田純子 
 
 
   他者の苦しみを己のものとする共生の感覚を、音楽は育む。ケネディ暗殺やタイタニック号事故など、現実の出来事を思索する現代作品が際立ち、聴く者を深い内省へと導く名演の応酬となった。

 加古川市立中部の一人一人の類いまれな能動性は、懐疑や絶望などの複雑な感情を精妙なジグソーパズルヘと仕立てあげた。南砺市立福野の曇りなき人間賛歌、福岡県立門司学園の内側から抑え難く湧きおこる祭りの野趣、いずれにも唯一無二の輝きがあった。北上市立上野は広重の浮世絵に想を得たスイスの作曲家、チェザリーニの脳内世界に思う存分戯れた。

 初出場は4校。幕開けを担った松本市立梓川は大河ドラマのテーマばりに劇的な課題曲Ⅱのユニゾンを深い集中力で歌いあげ、寝起きの会場に火を入れた。市川市立三のリズムの切れ味と熱量にも息を呑んだ。高松市立古高松は超難曲「ブリュッセル・レクイエム」に少人数で挑戦。穏やかな日常を破る突然の砲撃や人々の平和への祈りが、ここまで切実に胸に届けられたことがあっただろうか。

 出雲市立三は多様な鐘の音にとりどりの色を付け、小平市立小平三は余韻や残響をすら表現へと昇華させた。出雲市立一、旭川市立永山南、玉川学園、さいたま市立土屋の映像を見せる力、仙台市立向陽台の多様な祈りを精緻に編む対位法、山形市立六の心地良い推進力、大阪市立鯰江の木管楽器の繊細な扱い、いずれも出色だった。松本市立鎌田はモザイク画さながらの細部の表情が実に繊細。札幌市立向陵も音色の宝庫だ。

 朝霞市立朝霞一の「レ・ミゼラブル」は、登場人物それぞれの思いを丁寧に伝え、人間の尊厳の本質を聴く者の胸に刻んだ。鹿児島市立武岡の、闇から光へと向かう和声の精妙な移ろいにも陶然とした。越谷市立大相模はコロナ禍に書かれた「不朽の大樹」で、過去から未来へ脈々と連なる命のビジョンを溌剌とした音できらめかせた。生駒市立生駒と柏市立酒井根が、最初の一音で瞬時に空気を自分たちの色に染め変える別次元のステージで祝祭の幕を閉じた。

 技巧的な楽曲が続くなか、日進市立旧進の「天国と地獄」の健やかな諧謔が光った。上質の笑いや軽みの表現が、実はどれほど難しく、奥深いことか。愛ある指導の跡に教育の本懐を見た。課題曲Ⅲの小気味良いスイングで聴く者の心をほどき、開国へ至る日本の歴史のダイナミズムと郷愁で泣かせた福岡市立姪浜の選曲も心憎い。子供たちに、もっともっと多様な響きを。
  
 
 


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