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合唱は、声を、人間を、体感するためにある


命あふれる声に 人間を体感   吉田純子
 
 合唱の世界でも、新たな調和の模索が始まった。少人数での出場校が飛躍的に増えている。そんな新時代を象徴する高知学芸の、13の命あふれる声の束に打たれた。

 「お別れ」などの言葉へのちょっとした陰影のにじませ方に、鍛えられた瞬発力が宿る。歌いながらフォーメーションを変え、響きを放射させながら、高揚感も演出。一世一代の舞台を輝き抜いた。

 幕開けの国府台女子学院は、精妙極まる和声の移ろいと光の表現で聴く者の心を静謐な歌の神殿へ導いた。岡崎の、素朴でありながらどの瞬間も光がはじける不思議なハーモニーにも心惹かれた。

 武庫川女子大付、必由館、幕張総合、坂出は言葉の扱いが秀逸。安積黎明は重力にすら挑みかかる大岡信のエネルギーと真っ向勝負。松江北は希望やペーソスを涙にまぶし、歌が人間の優しさの本質をいかに多様に伝えうるものか実感させた。岡山城東の憎む心の痛みをすら顧みる、優しさの塊のような歌にも心をほどかれた。

 酉城陽は音響自体をひとつの生命体とする湯浅譲二の「探究魂」に追いすがり、鹿児島は先月逝去した西村朗の命たぎる絶唱を賢治の言葉を借りて響き渡らせた。

 畝傍と出雲は音の減衰にまで表現を宿らせる名演。盛岡四の遠近感と風景の喚起力に唸り、清泉女学院の柔らかな浮遊感に酔い、共生のビジョンをひたむきに希求する帯広三条の真摯なたたずまいに心を揺り動かされた。生誕100年を迎えたリゲティの多層的な実験精神を本能でとらえた不来方には感服しかない。郡山の、人間がはらむ矛盾をあらわにしてゆく純粋な声にも心が震えた。札幌旭丘は複雑な書法で透徹な響きを編む合唱大国ラトビアの俊英、エシェンヴァルズの宇宙を遊び、会津は自然と人間のダイナミックな邂逅をドラマのように描いてみせた。

 栃木女子には戦場で人間性を失ってゆく兵士の心を追体験させられ、仁愛女子の夢見るように美しいピアニシモに、真の祈りは限りなく沈黙に近付いてゆくことを教えられた。熊本一の響きの柔らかさは、それ自体が感動的な人間賛歌だった。浦和第一女子は抜群のリズム感と清澄な響きのブレンドで心地良くはじけた。松山女子が合唱の醍醐味ここにありとばかりに多彩な唱法を繰り出し、突き抜けた名唱で祝祭の幕を閉じた。
 埋もれがちな大勢の「私」の声を解き放ち、かけがえのない自問を交換する場として、教育としての合唱文化を育てたい。合唱は声を、そして人間を体感するためにある。    (編集委員・吉田純子)
 


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