出版業界の商慣習に一石 川村貴大
書店が出版社から直接本を仕入れる際、クレジットカードで決済できるサービスを、出版社「ミシマ社」代表の三島邦弘さんが、代表を務める会社「一冊」が一月に始めた。出版社が「取次」と呼ばれる卸業者を介して本を流通させるのではなく、書店と商品や代金を直接やり取りする場合の、清算の煩雑さを解消できるという。「商慣習のアップデートをやりたい」と三島さんは語る。
国内の出版流通では、取次を代表した販売ルートが主流だ。取次は書籍や雑誌を出版社から仕入れて全国の書店に卸し、代金を回収して出版社に支払う。書店からの返金も、取次を介して出版社に返される。一方で、取次を介さない「直取引」での販売重視する出版社もある。ミシマ社もその一つだ。
2006年にミシマ社を設立して独立するまで、別の出版社に勤務していた三島さんは、大量に作った本を不特定多数の読者に向けて出荷し、結果的に大量の返品を生み出す出版流通の仕組みが、人口減少社会のなかで限界を迎えていると感じてきた。「業界の構造は薄利多売で、書店はとにかく冊数の売るしかない。大量生産、大量消費の時代はそれでよかった。人口が減っていくなかで書店業という業態を成り立たせていくためには、一冊を売ることでちゃんと書店に利益が出るという構造に変えていかないといけない」
国内の出版流通には委託制度と呼ばれる仕組みがあり、書店は売れ残った本を一定期間に限り返品することが認められてきた。書店が売れ残りのリスクを負わずに多様な本を仕入れることで、店頭の品ぞろえをよくなり、読者の選択肢が豊かになる。出版社にとっても、店頭で読者に商品の現物を手に取ってもらうことで、宣伝効果が得られるメリットがある。
その一方で、この仕組みは30~40%程度という返品率の高止まりも招いてきた。近年は紙の出版物の販売額がピーク時の半分以下に落ち込むなか、返品にともなう輸送費などのコストが業界全体に重くのしかかっている。より小規模で小回りの利く出版のあり方を求めて独立し、直取引の販売を選んだ三島さんだったが、「最大のネックは清算だった」。取次を介さずに商売をするということは、一つひとつの書店と個別にお金のやり取りを行うことを意味する。
書店ごとに代金を計算し、請求書を作って書店に送り、入金の有無を確認する手間を解消するために作ったのが、今回の「一冊! 決済」と呼ばれるサービスだ。小規模出版社を中心に22社(三月一日時点)の本についてクレジットカード決済が利用できる。出版社は代金の5パーセントを手数料として負担し、決済完了後、書店に本を直送する。
「一冊! 決済」は、書店の仕入れが返本不可の「買い切り」の形になることを前提としている。「書店が仕入れたものに対して責任を持たなくてもいいという仕組みだったのが今までの出版業界。そうしたなれ合いが業界全体の地盤沈下を生んできた。書店や出版社のあり方を問い直す時代が来ている」と三島さんは指摘する。ただ、全国の出版社と書店を結びつける取次の存在は「もちろん必要」だとも三島さんか語る。
「取次がなくなったら、書店はすごく大変。いったん資源を全部集めて、それを配分するという中央集権的な仕組みは、ある程度残る必要がある。一方、現場と現場のニーズは瞬時につなげていくのがこれからのシステムの在り方、お互いに共存していくのが良いのではないか」