見出し画像

第2回 続「本を売る」ことに魅せられて 

本の学校出版産業シンポジウム

前回からのつづきです。

 90分におよぶパネルディスカッションの続きをダイジェストでお伝えします。

 業界紙『新文化』より引用します。

本の学校運営委員会は七月十日、東京・有明の東京ビッグサイトで「本の学校・出版産業シンポジウム2010 in 東京」を開催した。第一部のメインセッション「本の消費現場で何が起きているのか?」と題した特別講演には、六〇〇人の聴講者が集まった。メインセッションでは、立場の異なる三氏すべてが、出版のデジタル化を積極的に受け入れている姿勢が浮き彫りになった。
 出版産業シンポジウムは八日から開催された東京国際ブックフェアに併せて行われ、今年で五回目を迎える。メインセッションは、コーディネーターにフリー編集者の仲俣暁生氏、パネリストに印刷博物館の樺山紘一館長・講談社経営企画室の太田克史担当部長(星海社副社長)・丸善お茶の水店の草彅主税店長の三氏を迎えて行われた。
 初めに、樺山館長が自身の編書『新・現代歴史学の名著』(中央公論新社)で取り上げている文化人類学者・梅棹忠夫氏の「若い研究者は本を読み過ぎる。現場に行き、自分の頭で考えろ」という言葉を紹介。その上で、「本はもちろん大事だが、自分の頭と足を使うことが大事だ」と語り、読書が無条件で奨励される風潮に対して、問題提起した。
 続いて弁を取った太田部長は「最近、どんな本を読めばいいですか?という質問をよく受ける」と自身の経験を述べ、「梅棹さんの言葉は、自分で自分の読むべきものを決めよということではないか」とした。一方で草彅店長は、かつての陳列・販売方法では通用しなくなってきている書店の現状を紹介し、「刊行点数の増加により、並べる本をセレクトしなければならない」が、「書店にその選択権はない」と厳しい流通事情を訴えた。
 読者・マーケットの変化については、草彅店長が、来店者数に占める購買率が三〇代男性で13%  六〇代男性で50%という自店のマーケティングデータを紹介した。それに対し、太田部長は「買わなかった87%がキーポイントかもしれない」と語り、非購買の原因を分析することが重要だとした。
 講演のメインテーマである出版デジタル化については、まず樺山館長が「紙媒体か非紙媒体か、という問いはナンセンスであり、両立性を求めなくてはならない(電子端末を)積極的に使おうとは思わないが、賛成できる」と話し、「紙か電子か」というゼロサム論を否定した上で電子化の流れに対して賛同の意志を表した。
 草彅店長は、デジタル配信することで、紙の本も売れると主張し「五木寛之さんの『親鸞』を電子配信したことで、紙版が売れなくなったどころか、売上げを伸ばしている。デジタル配信を躊躇している出版社もあるが、もっと積極的に(デジタルの)宣伝をして、同時に紙の本も売れてくれればいい」と語った。
 編集者の立場からの"電子化“を尋ねられた太田部長は「ハードとソフトは基本的に一体で、ハードの進化の後にソフトの進化がある。石板しかなかった時代に長編物語を文字の形にはできなかった。つまり、今後新しい文芸作品、才能が現れると思う」と語った。
 さらに、樺山館長は活版印刷が登場した際、約五〇年という短期間のうちに写本から移行していった歴史を紹介し、どちらを好むかは「個性の問題」と主張。しかし、活版印刷が瞬時に広まった理由は「そこに強いニーズがあったから」であり、「現在のデジタル化の状況と非常に似ている」と語った。「時代の流れに乗る人と、乗らない人との相対でできあがっていくのだろう」との見解を示した。草彅店長は「書店の大型化が進んでいるが、電子配信になればそれも意味がなくなる。だからこそ、書店のセレクトが重要になってくる」と強調した。
 最後に樺山館長は「一つの武器を手にしたわけだから、一層の努力をして新しい形を構築して欲しい」と、業界関係者を激励した。

 また『文化通信bBB』では、こんな紹介をされていました。

仲俣 時代の大きな変わり目だということに関して、太田さんや草彅さんは、どのように見ているのでしょうか
太田 過度期に次の才能を見つけることができたら、歴史の教科書に名前が載るかもしれません。そういう意味で、スリリングで、いい時代に生きている気がします。
草彅 紙の本の出版点数は年間8万点と言われていますが、電子出版が盛んになると、(紙と電子で)年間10万〜20万点の新刊が出るようになります。書店の規模は大きくなっていますが、さらに出版点数が増えると、1000〜2000坪でも意味がなくなってきます。何が大切かというと、やはりセレクトです。真のセレクトショップに転身できるかが重要になってきます。商品をセレクトし、それを編集し、わかりやすいかたちでお客さんに提供することが大切です。
樺山 全くそのとおりです。図書館もそういう変化に立ち合っています。図書館と書店は時に対立関係にありますが、置かれた状況は非常によく似ている気がします。書店の人たちには、ぜひとも図書館と対話してもらいたいと思います。


 この時のシンポジウムの全文は『出版デジタル化の本質を見極める: 本の学校・出版産業シンポジウム2010記録集』(出版メディアパル)をご購入いただけたら幸いです。

 今から14年前のシンポジウムですが、僕は「書店のセレクトが重要になってくる」と言いました。それは、今日にも通じる話です。

 店主のセレクトが売りの独立系書店が増えてきました。一方、ベストセラー中心のチェーンストア型の書店は次々と閉店に追いやられています。
 書店は大きくなりすぎました。地域の読者にとって、広過ぎる売り場よりも、お客様が欲しいと思う本を、仕入れておきましたよ。と言える距離感が必要なんだと思います。


 7月15日、第143回 直木賞は中島京子『小さなお家』(文藝春秋)が受賞。芥川賞は赤染晶子『乙女の密告』(『新潮』2010年6月号掲載)が受賞しました。ペンネーム赤染晶子の赤染は、平安時代の女流歌人で、藤原道長の妻、源倫子に仕えた赤染衛門に由来するそうです。

ジュンク堂書店の社長と対面

さて、分社化した丸善ですが、
丸善書店の社長を兼務するジュンク堂書店の社長に会った日が何月何日であったかは覚えていませんが、どんな会話をしたかは明確に覚えています。

 当時、丸善の本社は品川にありました。その本社ビルの大きな会議室で丸善書店の出発を祝う内輪の立食パーティーがあり、首都圏の店長も呼ばれていたのです。すると丸善の役員に連れられて、ジュンク堂書店の社長が僕の前を通りました。丸善の役員は、「お茶の水店の店長です」と紹介すると、「ああ『新文化』の人か」と一言。
 話しをすると、どうも、『新文化』やマスコミなどで、とりあげられていることが面白くないようです。
 僕は直感しました。この人は、従業員に嫉妬するタイプだと。
 小城さんと比べて器が小さいと言うか、2010年当時、山﨑将志『残念な人の思考法』(日経プレミアシリーズ)がベストセラーとなり「残念な人」という言葉が流行っていましたが、工藤 恭孝は、正に「残念な人」でした。

 7月19日、毎日新聞に僕の名前が出ていると友人から教えられて、22面を読むと、「苦境『本屋さん』生き残り模索中 カギは本棚づくり」というタイトルの記事でした。

少し引用します。

同店(丸善丸の内本店)の一角に昨年10月に設けられた編集工学研究所長の松岡正剛さんがプロデュースした書棚群「松丸本舗」。約220平方㍍の売り場に新刊、文庫、漫画、写真集など約5万冊をそろえた。段違いの棚に出版社やジャンル、著者・作家にとらわれず、一見無造作に本は並ぶ。自宅の本棚のように、横に倒れたままの本も演出だろう。「乱歩と久作を知らないまま、年をとってはいけません」「太宰・坂口・東京裁判〜ここからもう一度民主日本を問い直す!!」。棚板には松岡さん自身が手書きした文字が踊る。
「松岡さんの思考をらせん状に表現した」という。例えば、プラトンの「国家」と、古代ローマ人が現代日本に現れる漫画「テルマエ・ロマエ」が同じ棚に。その下の段には「インド古代史」「ブッダの生涯」とともにイエスとブッダを主人公にした人気漫画「聖⭐︎おにいさん」が横置きされていた。
「最初この話を聞いたとき、社長から従業員への挑戦状だと思った」と話すのは丸善お茶の水店の草彅主税店長。書棚づくりは書店員の仕事で、著名人とはいえ外部からの登用には抵抗はあったろう。しかし、「漫然と本を並べているだけでは、読者との接点は拡大しない。書店は常に違う切り口を用意していかなければ、と思った」という。

社長からの挑戦状

 この発言は、やはりシンポジウムでの話の一部分を切り取ったものでしたが、実際は何と言っていたかを記しておきます。

草彅──松丸本舗の名前が出ましたが、このお店が丸善丸の内本店の中に最初できるという話を聞いたときに、これは社長からの私ども従業員に対する挑戦状だというふうに思いました。要するに、本来は私たち丸善の人間がそうしたセレクトの店を作るべきだった。ですから、それを松岡正剛さんがお創りになったということは、「お前たちには創れないから松岡正剛に依頼したんだと」と。社長はそうは言っていないんですけれども、私はそのように捉えました。ですから仲俣さんがおっしゃったように、私もお茶の水で草丸本舗じゃないですけれども、自分なりのセレクションの棚を作るということで、またほかのスタッフにも、おまえは吉丸本舗をやれよというような話は常々しております。
 この業界に入ったニ〇年以上前からすでに「良書普及せず」という言葉があって、いい本が普及しないというような言い方をされていた。ただニ〇年以上も業界に携わっていると、やはりいい本はきちんと残っていて、これはまた伝え方次第で復活するんだということを感じております。

松丸本舗

 松丸本舗には言いたいことが山ほどありますが(笑)それは、また改めて書きます。


 7月の中間決算も無事に終わり、その数字がでることを心待ちにしていましたが、8月上旬、決算のデータが確定しました。お茶の水店は、営業利益が予算に対し、130%と好調に推移していました。

誰かが言いました。「出る杭は打たれる」と。

9月2日(木)渋谷の東急百貨店本店の7階に
MARUZEN &    ジュンク堂書店がオープンしました。

同日の朝日新聞には全1面広告を掲載。
キャッチコピーは「書店を楽しめ!」とあり、「本屋さんの楽しさ」が忘れられそうな現代。
実際に本を手に取ることによって、一冊の本と出会う喜びを、もっと多くの人に体験していただきたい。
「リアル書店復権」をめざして2社がコラボを実現。
渋谷地域最大級のワンフロアに、130万冊の書籍と「書店の楽しさ」がぎっしり並べられています。
・・・という長文が綴られていました。

渋谷地域最大級とあるが売場面積は1100坪。
かつてのブックファースト渋谷店をしのぐ大きさ。
7階という点と営業時間が21時までという点は気になるが。

「MARUZEN & ジュンク堂書店」というショップブランドとしては、この渋谷店が1号店。
年内には広島・大阪(茶屋町)にも出店が計画されています。

ただコラボレーションと言っても
書店の中身は「ジュンク堂書店」であり、
「MARUZEN」の部分は、文具だけの状態。

 また9月1日付で丸善から3名、ジュンク堂の藤沢店と大宮店、仙台ロフト店へ出向することになりました。

次は、誰が出向するのか、異動するのかと考ええていた時、
僕は9月16日付で丸の内本店勤務を命じられ、
連休明けの21日に着任したのです。

つづく

いいなと思ったら応援しよう!