第16回「本を売る」ことに魅せられて
2004年(平成16年)7月11日、日本書店大学の例会で僕は講演をしたのです。演題は「パソコン書の棚作りと売上UPの事例」でした。
米子の本の学校「出版業界人研修 基本教育講座」(通称:春講座)で、2000年〜2003年まで「パソコン書の販売対策」という講座の講師をしていましたので、自己紹介をかねて講演することとなったのです。
当時はパソコン書の売上スリップのボウズに分類記号が記されていました。
現在は、スリップレスの版元が多いので変更されていますので、後述します。
スリップのボウズの記号は、あくまでもジャンルを特定するためでしたが、この記号(A〜H)の順番に並べている(すなわち1列目の1段目は、「A1」のマッキントッシュから棚を配列していた)書店が多かったのです。
パソコン書の棚作りも、まずキーとなるジャンル(例えば、「Windows」や「Excel」「ホームページ作成」など)をゴールデンゾーンに配し、その上下に関連ジャンルを並べると客単価が上がります。
下記の図は「郊外型100坪」の事例です。
「現在の棚」(Aから順に並べた棚)と「改善案」を比較してご覧ください。
また、この時の講演録が今井書店の「本の学校」のホームページにありました。転載します。
現在、パソコン書の出版社で、売上スリップを入れている出版社は少なく、スリップのボウスに入れていた記号は、写真のように表4(裏表紙)に表記されています。
また分類記号も変更されていますので、最新の記号につきましては、コンピュータ出版販売研究機構(コン販研=CPU)のホームページからダウンロードできます。
下記の表は、ジャンル別の売上構成比を計算した表です。一番は「インターネット」次いで「表計算(Excel)」「Windows」となっています。※2003年の数値です。
21年たった今のパソコン書の売行きも見ましょうか。
2024年1月25日、本のネット通販「honto」で「コンピュータ・IT・情報科学ランキング」を検索すると、
1位『ゼロから始めるSNS副業 自分の日常が仕事になる』総合法令出版
2位『いちばんやさしいITパスポート 絶対合格の教科書+出る順問題集 令和6年度』SBクリエイティブ
3位『世界一流エンジニアの思考法』文藝春秋
4位『ゼロからわかるPython超入門 はじめてのプログラミング』技術評論社
5位『生成AIで世界はこう変わる』SBクリエイティブ
となります。「Windows」「インターネット」「ホームページ」というタイトルは、上位ではなく、SNS副業のビジネス書やITパスポートなど資格試験、エンジニアの自己啓発本、プログラミング、そして、AIというように変わりました。Windows95ブームで専門書だったパソコン書が一般、ビジネス、実用書に変わりましたが、再び専門書に戻ったようにも見えます。
パソコン書のトレンドは激しく変化します。コン販研のコードの改訂版を、しっかり見ましょう。
今は「言語」では「Python」が人気ですが、コードは、B2-23です。
また昔は「情報処理試験」と呼ばれていた試験が「ITパスポート」「基本情報技術者試験」「情報セキュリティマネジメント」「高度情報処理技術者試験」などに変わっています。
いかがでしょうか?パソコン書の棚作り、少しは、参考になったでしょうか?
日本書店大学の7月例会は、夜9時まで続き、翌日は、小学館PSを訪問して、セカチュー(『世界の中心で愛をさけぶ』)の仕掛け人である新里健太郎さんの話を聞きました。このような話は、オーナーだけでなく、現場の店長たちにも聞かせたいので、レポートを作って、店長のメーリングリストにながしました。
こうして日本書店大学の仕事は、出版社訪問、講演、セミナーなどの企画立案から出講の交渉。案内書の作成。そして集客までが僕の仕事となりました。
そして、毎年秋には泊まり込みの「書店特訓ゼミナール」があり、以下のように決めました。
いやぁ。オリオン書房の高田鉄さん「講演はやりたくない」と固辞していましたが、口説くのに立川まで何度も足を運びました。最後は根負けしたのか、引き受けてくれました。
ありがとうございました。高田鉄さん。
さて、そろそろ2004年も僅かですね。
その2004年、世の中は、どうでしたか?
7月11日、第20回参院選で自民党は勝敗ラインの改選51を割る49議席にとどまり敗北、民主党は自民党を上回り、野党で過去最多の50議席を獲得しました。
アテネ五輪で日本は東京五輪と並ぶ史上最多の金メダル16個の活躍を見せ、メダル総数でも最多の37個を獲得しました。柔道では野村忠宏が3連覇、谷亮子も連覇するなど金メダルは8個。競泳も男子平泳ぎで北島康介が100、200メートルで金メダルを取り、コメントの「チョー気持ちいい」が話題となりました。
10月23日午後5時56分頃、新潟県中越地方を中心に最大震度7を記録する強い地震があり、死者40人、重軽傷者2,850人余りを出す惨事となりました。
プロ野球界はオリックスと近鉄の合併に端を発した再編問題で揺れました。また楽天がライブドアと争った末に新規参入球団に決定。これでダイエーを買収したソフトバンクと合わせIT関連企業2社となりました。
この年の出版業界は?
初版290万部超のJ.K.ローリング『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』(静山社)は、ダントツで一位となった他は、昨年のベストセラーが、そのまま売れ続け片山恭一『世界の中心で、愛をさけぶ』養老孟司『バカの壁』(新潮社)が上位を占めていました。その他、アレックス・ロビラ フェルナンド・トリアス・ デ・ベス『グッドラック』(ポプラ社)は、志夢ネットでも拡販して3,040冊以上売れましたね。芥川賞受賞の綿矢りさ『蹴りたい背中』(河出書房新社)村上龍『13歳のハローワーク』(幻冬舎)上大岡トメ『キッパリ!』(幻冬舎)など、多くのミリオンセラーもあり、これまで7年連続で、右肩下がりだった出版業界の総売上は、前年をクリアしたのです。
ちょっと残念な裏事情を書き残します。ここで言う出版業界の総売上は、取次ルートにおける出版物推定販売金額であり、ざっくり言えば書店への出荷(送品から返品を差し引いた)金額です。したがって、読者が購入した金額ではありません。売れずに店頭在庫(或いはストック、倉庫保管)として抱えている分は無視しています。
なぜ、そんなことを言うのかと言えば、空前絶後の初版部数となった『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』(静山社2004年9月刊)に関して言えば、そうとうな数の在庫を山手線内側の書店は、倉庫に眠らせていました。
大ベストセラーでありながら、なぜ売れずに残っていたのでしょうか。
それは、新刊配本のやり方が、1〜3巻のやり方と4巻、そして今回の5巻とそれ以降では、条件が変更されたのです。1〜3巻の時は、新刊委託で配本があり、ナショナルチェーン、大型書店中心に展開されました。しかし、配本がない小さな書店からの要望を受け委託ではなく返品できない「買切」条件ならば注文があった書店に満数出荷することを発売元の静山社が約束したのです。
僕はブックファースト渋谷店のデータを見ましたが、1〜3巻は5桁売っていたのに対し、「買切」となった4巻は3桁止まりでした。そして、最新刊の5巻も4巻同様に3桁に止まりそうでした。
なぜこのような結果になったか!
通常の取引では、山手線のターミナル駅の大型書店は、取次や出版社から優遇されて、新刊が多めに配本されます。一方でターミナル駅から田園地帯を走る私鉄沿線の駅前にある小さな書店や郊外型の書店には新刊が入荷しません。つまり、新宿ならば小田急線や京王線、西武新宿線にある書店、渋谷ならば田園都市線、東横線、井の頭線にある書店、池袋ならば西武池袋線、東武東上線の書店の存在を考えずに仕入をしたため、『ハリーポッターと不死鳥の騎士団』は、余分な在庫として残ったと推察します。
そして、山手線内側にある職場の近くの書店で買わずに自宅近隣の書店で読者が買った最大の理由は、「重さ」だと思います。『ハリーポッター』シリーズは、第4巻の『ハリー・ポッターと炎のゴブレット 』から上下巻2冊セットとなりました。頁数は1144でした。かなり重たいです。さらに『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』上下巻2冊セットは、なんと1368頁もあり、重さは2キロを超えました。
これを会社の近くで買って、満員電車で持ち帰るのは苦行です。バックが重すぎて肩が抜けてしまいます。(僕は持って帰りました(^O^)重かったです)。
尚、ブックファーストチェーンでは、東急田園都市線の青葉台駅から近いブックファースト青葉台店が一番売れていたので、渋谷店の在庫は青葉台店へ移動されました。
志夢ネットの郊外型店舗では、車で来店されるので重たい思いをしないで購入が可能であり、売上は5000冊以上。4巻の売上を超えました。
一方、重たい思いをしないで済むため、ハリーポッターシリーズはAmazonでの予約数が一気に伸びたのです。
映画界は、どうだったか?
国内興行収入の1位はトム・クルーズ主演の「ラスト・サムライ」(監督: エドワード・ズウィックが監督 )2位は「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」(監督:アルフォンソ・キュアロン )3位はピクサー・アニメーション・スタジオによる「ファインディング・ニモ」4位は監督: ピーター・ロバート・ジャクソンの「ロード・オブ・ザ・リング王の帰還」5位は監督: 行定勲、出演: 大沢たかお、柴咲コウ、長澤まさみ、森山未來の「世界の中心で、愛をさけぶ」でした。
ほんと「セカチューブーム」でしたね。
この映画でブレイクした長澤まさみ。
ラストの舞台はオーストラリアのエアーズロック。サク(大沢たかお)と律子(柴咲コウ)は新しい人生を歩き出します。その二人をカメラは上空から撮影。そして、エンディング曲が流れます。
では、その曲でお別れしましょう。2004年のヒット曲。
映画「世界の中心で、愛をさけぶ」のエンディングテーマ曲。平井堅「瞳をとじて」(作詞、作曲:Ken.Hirai 編曲:亀田誠治)
『世界の中心で、愛をさけぶ』は、2003年11月に発行部数100万部を達成。2004年12月に320万部となっていますが、すみません。未読です(笑)
つづく
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