『Pokémon LEGENDS アルセウス』をクリアしての感想
2022年1月28日にポケットモンスターシリーズ最新作にして非常に意欲的な作品である、『Pokémon LEGENDS アルセウス』(以下アルセウスと呼ぶ)が発売された。
1年ほど前にPokémon Directで発表されて以降、ポケモン初のアクションRPGとして新情報が飛び出すたびに期待が高まり、ほぼ全ての世代をプレイしていた私(7世代のみ未プレイ)としてもポケモンコロシアムのようなスピンオフ作品がゲームフリークから発売されることに心を躍らせていた。
この記事は15時間ほどプレイした私が、アルセウスの率直な感想について記したものである。なおネタバレを含むのでまだ未プレイの人におかれてはブラウザバックを推奨されたい。
現在のプレイ状況
12時間ほどプレイし、表ストーリー(ヒスイディアルガ・パルキアの捕獲)は完了。また裏ストーリーとしてウォロ戦の途中(レベルが足りず、ギラティナに勝てずに放置)。といった状況だ。
またサイドストーリーなどはほぼ全てスキップしている。
剣盾の感想
アルセウスの感想の前に、剣盾に対してどのような感想を抱いていたかを明らかにした方が、読む側としてもスタンスを取りやすいと思うので、特別にこの項目を設ける。
剣盾についてはグラフィックの大幅な向上とは裏腹にゲーム性やシナリオが損なわれていた残念な作品として位置付けている。どの世代においても、私はほぼストーリークリア勢+殿堂入り後のシナリオ+図鑑埋め勢である。つまり対戦環境などは一切考慮していない。
剣盾はシナリオがないに等しかった。お決まりの悪役も存在せず、明らかに怪しい市長が湧いて出たように最後だけ悪事を働くことに違和感を抱いた。
また、あーしろこーしろというメニュー画面におけるおつかいのお知らせも煩わしく、自分のペースで新しい地方で冒険をしている雰囲気が損なわれてしまったのも残念でならない。
伝説ポケモンの立ち位置も微妙で、ダイマックスのシステムもシナリオ上特に必要なく、追加された要素がことごとくうまくはまっていない印象を受けた。
元々シナリオを非常に重要視するタイプなので、剣盾には心底がっかりした。ただ考えてみたところ、ポケモンは子どもをメインターゲットにした作品であり、そこにシリアスな展開や重厚なシナリオ、複雑な人間関係を求めても仕方ないかとも思った。
今後も正統作品の続きは出るかもしれないが、剣盾と同じようにコマンドRPGであればプレイしなくてもいいかなと決意した矢先のアルセウスの発表だった。
それを踏まえての本作アルセウスの感想を述べていこう。
良かった点
完全新作の期待に応える新しいポケモンの世界
本作は戦わせることもさることながら、いかにして捕まえるかというところに焦点が当てられていたように思う。草むらに隠れてポケモンに気づかれないようにして近づき、さらに時には背後からボールを投げてポケモンの不意をうって捕まえる。
このことは図鑑をただ埋めるだけではなく、ポケモンの生態を細かく明らかにしていくというヒスイ地方ならではの設定とも親和性が非常に良い。また背後から投げられた時のポケモンのリアクションや、こちらに気がついたときの行動も一匹ずつ設定されており、後述する「生活感」を上昇させていた。
図鑑を埋めてギンガ団ランクをあげることを本作の中心と据えていることもあり、全てのプレイヤーが図鑑埋めのためのポケモン捕獲を行うことになり、その中で広大なフィールドに生息するポケモンと触れ合うことになる。
シナリオだけさくさくと進めたい私のようなプレイヤーでも、捕まえているうちに何となく楽しくなって捕まえ過ぎてしまうのだから、収集癖があったり要素のコンプリートが好きな人であれば、無限に時間を使えるようにできている。にしてもミカルゲはやりすぎ。
細かいことを言えば、剣盾のワイルドエリアに比べてポケモンの間隔が非常に良く調整されている。これは全体として狭まっている、広がっているという意味ではなく、ビッパのような小型で何となく群れてそうなポケモンは密接して、雪国の広大の大地のポケモンたちは大きく離れているという調整が行われている。剣盾の雑な湧き方とは大違いだ。
加えてヒスイ地方はかつてのシンオウ地方を舞台としているため、基本的には自給自足の生活を強いられる。ポケモンセンター?ありません。フレンドリィショップ?ここはフレンドリィではありません。わざマシン?マシンはないって言ってますよね?
というわけで、ただ図鑑を埋めるために、ボールをぽいぽい投げているとあっというまにボールがなくなってしまう。ボールや回復アイテムをクラフトするための素材を集めることもポケモン集めと同時並行してやらなければならない。さらにその素材を確保するためのポーチの容量はお金によってしか広げられず、お金は図鑑埋めによって稼ぐので、とりあえず広大な大地を右へ左へうろうろさせられるようになっている。
オープンワールドのゲームは正直そこまで好きではないが、一番楽しんで東奔西走できたかもしれない。一つオープンワールドを楽しめるバロメータとして、遠く離れた土地まで時間のかかる方法を使ってでも移動できるか、移動を楽しめるかが挙げられるが、間違いなく本作はそれを満たしていた。
オオニューラを手に入れるまでの崖の立ちはだかる敵感は異常。そして木陰や岩陰からボール投げようとしたら、えらいリアルな物理判定に阻まれた人は私だけじゃないはず。初見で溺れずにクリアできた人0人説。
ポケモンの「生活感」
前作剣盾でもオープンワールドに近い場所がワイルドエリアとして登場していたが、あまりポケモンがその場所に暮らしているという感じがしなかった。内部的な処理の問題で突然ポケモンが湧いて出てくるような不自然さや、海や池に存在するポケモンのとりあえず置いてやった感が拭えず、何とも残念だった。
ヒスイ地方を舞台とする本作は、人の手がまだ入り込んでいないという設定のため、街やそれをつなぐ道というものが存在せず、基本的に主人公たちはあるエリアをベースキャンプを拠点に活動することになる。
そのエリアごとに草原が広がっていたり、湿地で覆われていたり、高低差のある雪原だったりと、生息しているポケモンの種類や場所に大きな偏りがある。
火山口付近にはブーバーがいたり、雪原の地下の雪道ではクレベースがいたり、湿地にグレッグルやヒポポタスがいたりなど、そのポケモンの特徴を捉えた生息地となっており、ヒスイ地方にポケモンが「暮らしている」という印象を強く与えていた。
また場所とポケモンとの関連性がきちんとだけではなく、そこにポケモンが暮らしている様子を見られたのも良かった。本作をプレイ中に私が発見したのは、エテボースとパチリスの二種類だったが、なんとそのあたりですやすやと寝ているではないか。
最初見た時は驚いて声をあげてしまったが、本作の主な仕様であるスニーキングを使って近づいていけば、起こすことなく捕まえることができる。後述する図鑑埋めの項目となっており、ポケモンの楽しみ方を増やしながら、プレイヤーをヒスイ地方に誘い込む、とても素敵な要素だった。
また水上のポケモンについても、微妙に水面下にいて見えづらかったり、捕まえるのに一工夫必要だったりと、多少の爽快感を犠牲にはしていたが、そこにポケモンがいることをはっきりと示していた。
不満だったところ
グラフィックの荒さ
これにはもちろんPVが公表されたときから指摘されていたようなテクスチャの荒さも含まれてはいるのだが、それよりもプレイ中にちらちらと気になるところが多かった。
例えば洞窟や地下道など背景のテクスチャが特殊な場所でポケモンの戦闘を行うと、おそらく背景の上にポケモンを配置していることによるポケモンの輪郭のちらつきが酷かった。単に自分が偏頭痛持だからということもあるのだが、プレイしていて絶対に気づくレベルだと思ったので、もう少し何とかならなかったものだろうか……
また主人公やポケモンが演出上アップになる瞬間があるのだが、その際の背景がガクガクしていたり、草のテクスチャが不自然な動きをしていたりなど、雰囲気を損なうような荒さが目立った。
あのエリアの広さを全て完璧なグラフィックでとは言わないが、着目されがちな部分だけでも気にしてもらえると嬉しい。
難易度の向上
第6世代でがくしゅうそうちの仕様が変更され、レベリングが容易になったことは記憶に新しい。XY以降相手のレベルも上昇していたが、それ以上にレベリングの容易さがプレイヤーにもたらす恩恵は大きかった。
しかし本作は相手の思考が非常に賢くなっているほか、レベリングが非常に困難になっている。そのため従来の正統作品に比べると難易度が跳ね上がっている。
前者は覚えさせるわざが都度変更できるシステムで間接的にこちらも恩恵を得ているのかもしれないが、とにかく相性補完の取れた技を使ってくるポケモンの多いこと多いこと。しかもトレーナーだけでなく、やせいポケモンでも平気でやってくる。やせいポケモンってたくましいんですねぇ……
弱点が少ないはずのディアルガやパルキアが何度はどうだんやムーンフォースで吹き飛んだことか……
ある程度タイプもばらけさせているのに、かなりのレベル差で的確に弱点をついてくるので、従来のポケモンのように先頭のポケモンだけで無双するみたいなことはほぼ不可能になっている。
後者は言うことを聞くレベル上限の解放や、新エリアの開放が、図鑑埋めと連動していることに基づく。
おそらくほぼ全ての人が表ストーリーの最後の局面にレベル50代くらいで突っ込んだと思うのだが、相手の使ってくるポケモンは軒並み60代で面食らってしまった。
しかもその段階ではイツツボシくらいだったので、レベル上限が65であり、まぁそんなきっちりレベリングしているわけもなく苦戦を強いられた。
また従来のポケモンにおいてヌルゲーを可能にしていたのは、豊富なアイテムだったが、今作にアイテムショップなどという文明の利器は存在しない。もちろん人がクラフトするボールや回復アイテムなども落ちてはいない。
上記の理由で十分なレベリングをしないままシナリオを進めることになるのだが、そうすると必然的にゾンビ戦法を繰り返すことになる。レベルの差はすなわち行動回数に影響を与え、一匹目などは行動できずに倒れてしまうこともままある。
なのにげんきのかけらがない、げんきのかたまりもない、挙句の果てにアイテムを収納するポーチもスペースが足りないの何重苦で、ウォロ戦で止まっている、というわけだ。
もちろんきっちりとアイテム回収を継続的に行い、頻繁にクラフトしていればそんなことはないのかもしれないが、やる気があるうちにガッとプレイしたいタイプの私としては非常に難易度が高かった。
ヒスイ地方の手探り感は十二分に味わえたので、せめて5レベルくらい全体的に下げてもらえると嬉しいです…
UI/UX周りの不満
ダッシュで息切れするようなシステム考えた人、怒らないから出てきなさい。地図のショートカットも微妙に使いづらかったので、コトブキタウンではアヤシシに乗れるようにしてほしかった。
またポケモンと道具を全く同じメニューで扱えるようにしたのも、微妙につかづらかった。今作は捕まえることを全面に出すため、Rボタンである程度の操作が可能なポケモンに関してはメニューにおける優先度を劣後したとも考えられるが、ボタンは余っていたわけで……
エリア間の移動も一度コトブキタウンに帰らなければいけなかったと思い、そこも微妙に手間だった。(間違っていたら申し訳ない)
このあたりは慣れてしまえば何ということはないが、次回作(といっても全く異なるものが出てくることだろうが)においては改善を希望したい。
まとめ
剣盾をプレイしたときに、もう正統作品はプレイしないだろうと考えており、本作は良い意味で裏切られたように思う。
ポケモンというIPを全く新しいシステムと地続きの世界観で包み、コマンドRPGの正統作品とは違った方向性を提示できたのは今後のポケモンの多様性を切り拓く上で大きな意味を持つだろう。
また私の求めるポケモンの「生活感」について本作で十二分に満たされていたことは、一つの事実を我々に突きつける。
それはポケモンの新作として一定のクオリティを保つことは、登場するポケモンの取捨選択である、ということだ。
各ポケモンの生息地を定め、図鑑の項目を決め、主人公へのリアクションを設定する。それを全てのポケモンについて行うことは並大抵の労力ではないだろう。
ポケモンはその数ゆえに、各プレイヤーに愛着を持たせてきたことは間違いない。漫画は5年で読者が変わるというが、ポケモンはおよそそれよりも短いペースで新しい舞台で魅力的なポケモンを登場させてきたことが、IPにおける現在の地位を獲得してきた理由の一つであることは疑い入れない。
ただ、前作剣盾や今作アルセウスのように、新作は一部のポケモンを「リストラ」せずには開発できない。悲しいことだが、それは避け難い事実だ。事実今作には私の好きなミロカロスは登場しなかった。
シリーズものは従来のファンがついているためある程度の売り上げが見込める一方で、やもすると従来のファンの声によって新しい挑戦ができず粛々と同じシステムでガワだけ入れ替えたゲームを作ることに繋がりかねない。
その中でポケモンが今回これだけの挑戦をしたことに私は非常に大きな期待をしている。もちろん不満は多くあるが、最初から満点の挑戦などあり得ないだろう。多様性はこうしたところからしか切り開かれないと思うし、いちポケモンファンとして挑戦を応援する。
新ポケモンも楽しみだが、あたらしい世界でどのような関わり方を人とポケモンとがしているのか。そしてその世界観でどのようなストーリーが描かれるかを私は今後も着目したい。