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集団言語遊戯「優美な死骸」を一人でやる〜ランダムな文章を味わいたい〜

シュルレアリストの皆さん!!!
優美な死骸
やっていますか?

私はやっています。

鳥はかわいいですね。
こんにちは、草賀うま(クサガ-ウマ)です。

 
 夏休みもまさに佳境ですが、外に出る予定がない私は、常日ごろ家でゴロゴロダラダラしています。時間がありあまってしょうがないので、いっそのこと、シュルレアリスムごっこをしようと思い立ちました。


◆シュルレアリスム とは…

(素人なので内容の質には期待しないで下さい)
 一言で言えば、第一次世界大戦後にパリで興った芸術運動です。
 その少し前に、オーストリアの精神科医であるフロイトが、人間の欲望は無意識の領域から生まれるもので、それを理性が押しとどめているのであり、私たちが普段見る夢とは欲望が検閲された結果の産物なのだとする考えを提示しました。この無意識という概念が、シュルレアリスムに独自解釈を経て受け継がれ、のちに詩・小説をはじめとする文学から、絵画、写真など多岐にわたって影響を与えることとなります。

 シュルレアリスム運動が活発化した1920年代は、化学兵器・生物兵器が用いられ、総力戦の様相を呈した第一次世界大戦の悲惨さが、徴兵された人々のように、戦争に直面した人々の間で共有されていました。そんな中でシュルレアリストらは、そのような戦争を引き起こすに至った既存の「理性中心主義」と近代文明に疑義を呈し、それに対する反発として、「理性」を極力排した作品作りを試みます。当時の植民地支配の論理は、「理性」を主軸に据えて発展してきた「文明」である西欧世界と、「未開」である非西欧世界、という進化主義的な対立構造によって下支えされていたためです。第一次世界大戦が植民地の獲得を巡って勃発したことを鑑みれば、戦争で傷ついたシュルレアリストたちが従来の価値観全体に食って掛かったのも理解できる気がしますね。

 今回紹介する「優美な死骸」は、シュルレアリストの間で実践されていた集団言語遊戯の一つです。絵画でもやるらしいですが、今回は文章で遊ぶスタイルを紹介します。


・最初の人が詩を一行書きます。

・紙を折り曲げるなどして、
 自分が書いた詩を見えないようにしてから、次の人に渡します。

・次の人も詩を一行書きます。

・紙を折り曲げるなどして…(以下繰り返し)
 これを人数の回数ぶんだけやります。

・紙を広げ、それぞれが書いた行を順に並べて読みましょう。


 お分かりの通り、ふつうなら前後のつながりのない妙な詩ができるでしょう。文学スタイルとか考えていることとかがまるで違う人たちが集まったら、それはそれは滅茶苦茶な詩ができるはずです。ただ、シュルレアリストたちはそれに面白さを見出しました。一体どういうことなんでしょうね。「優美な死骸」。名前も相まって何だかヤバそうな遊戯ですが、これからその面白さを実例を交えて見てみたいと思います。

 一つ予告しておくと、この遊戯の面白さは集団で文章を書くことそのものにではなく、生み出された謎文章を解釈することにあります

 …というわけでこちらの「優美な死骸」、100年ほど前にシュルレアリストたちがやっていたように、シャレオツなカフェに屯して、ワイワイガヤガヤで行わせていただきたかったのですが、私にはそんな一風変わった遊びに付き合ってくれるような友人がいませんから、結局一人でやることにしました。遊戯の本質を損なわないようにちょっとルールを改変した上で。

 前述の「複数人でそれぞれ詩を一行書き、それらをまとめて一つの詩作品にする」というやり方から、「ランダムな単語を並べて一つの文を作る」というやり方に変えちゃいたいと思います。



◆手法

  1. 文章の品詞構成を決める。
    文構造的に正しい文章が生成されるようにするため、行います。
    (シュルレアリスムの父であるアンドレ・ブルトンも、自身が「理性(意識)を介さずして書いた」と主張する文章に対して、「じゃあどうしてフランス語の文法が守られているんだ」というツッコミをされているくらいなので、まあ大丈夫大丈夫) 
    ex. 形容詞→名詞→動詞→形容詞→名詞

  2. ランダムな単語を生成する。
    連想する習慣のある人間が単語を挙げると、似た感じの語ばっかりになってしまうので、以下のサイトを使わせていただきました↓
    https://randomwordgenerator.com/
    ex. Beautiful / star / sing / dark / sky ※これはNoランダム

  3. 校正する(前置詞、三単現など)。
    ex. Beautiful stars sing in the dark sky.

 なお、この手法は私のオリジナルではありません。ランダム単語ジェネレーターを利用することで、一人でも遊べるようにしたのは私の試み(これも多分先人がいる)ですが、もとはと言うと「品詞だけを設定し、複数人で紙を回してそれぞれが適当な単語を書き、一つの文を作り出す」という、ある授業内でやった遊びを参考にしたまでです。英語でやっているのはその名残です。



◆やってみた

 これで生成したランダム文章の数々がこちらです↓
 (和訳は私によるものです。なお、当方文法が苦手なので、単数形と複数形の使い分けや冠詞など、実はよく分かっておりません。ご容赦)

Mighty marketing departs talented people.
強力なマーケティングが才能のある人材を引き離す。

 あまりに露骨な宣伝をする企業・組織に幻滅してしまった就活生について話しているみたいです。


Jobless development characterizes relieved priority.
失職の発展は緩和された優先度を特徴づける。

 何となく不自然な英語ですが(ランダム生成なので当たり前)、失業が進展している状況下において、これまで蔑ろにされていた(緩和された)政策案を見直しているのかも。


The known mouth fetches sable injury.
知られた口は黒い傷を取ってくる。

 「知られた口」ってなんか怖くないですか。歯医者の広告に多く出てるモデルの口はある意味"known"と言えるのかもしれないですね。黒い傷を喚起するのもまた一興。唇か口腔の画像を目にして、忌まわしき記憶が呼び起こされたのかな?


An inconclusive vehicle consists of spiritual maintenance.
決定的でない乗り物は霊的なメンテナンスから構成される。

 これ最高ですね。"vehicle"のあとに"maintenance"が出てくる奇跡もそうですが、2つの形容詞がまことに良いはたらきをしています。霊的なメンテナンス。気になりますねえ。乗り物を決定的でなく(?)するんですから、なんか良からぬ呪いをかけられているのかもしれないですね。メンテナンスに出したら燃費が悪くなったとか?


The exuberant database touches on the quack administration.
元気に満ちたデータベースは無駄口を聞く行政に触れる。

 元気に満ちたデータベース…。陽気なチャットBotみたいなものを連想させますが、それが行政をぶった切るんでしょうか。


Nonchalant cells include several families.
無関心な細胞はいくつかの家族を包含している。

 換言すると、家族に無関心な細胞、といったところでしょうか。ミトコンドリアとかマトリックスとか、もっと大事にしてあげてください。


A tender direction penetrates wealthy difficulty.
優しい指揮が裕福な難局を穿つ。

 人が好い監督の手腕で、難航しそうな撮影が上手くいったみたいですね。裕福な難局ってなんでしょうか。矛盾しそうなフレーズですが、予算が余り過ぎて逆にヤバいのかも。


Changeable colleges strain simple currency.
可変の大学は単純な貨幣を緊張させる。

 可変の大学(⇔特定の大学?)…ですから、多くの大学で通貨危機について論じられていて、それがさらなる不景気を煽っているということでしょうか(実際にはそんなことはないと思いたい)。


Abounding chocolate breathes nervous users.
豊富なチョコレートが緊張したユーザーを呼吸させる。

 これも情景が浮かぶ良い文ですね。バレンタイン・デーかホワイト・デーに、いっぱいチョコレートを貰った人が、想定外の量に過呼吸気味になっているようにとれます。ただ、単純に"boy"とか"girl"にすればよいところを、あえて"user"と表現していることから、何やら不穏な気配がします。なんかそういう「チョコを送り付けて、自分があたかもモテる人物であるかのように見せかけるためのサービス」みたいなのがあるのかも。そうだとしたら、この文章を読む目も変わってきますね。


Plain television insist on good video.
平凡なテレビは良い映像にこだわる。

 厄介目な業界人の格言…?良い映像だけでは視聴率が取れないのか、はたまたあえて「良くない映像」を撮ろうとしている変わり者なのか。それはそうとして、"television"のあとに"video"が出てくる奇跡。もはや作為なんじゃないかと思ってしまいそうです(ジェネレータのことは信頼してます!)。


A pathetic woman fetches enchanting pollution.
哀れな女性が魅惑的な汚染を連れてくる。

 これは問題だ。関わるべきじゃなかった女性(ひと)…。語弊を招きそうなので、多くは語りません。


The puny mood counters against the wealthy breath.
取るに足らないムードが富める息吹に対抗する。 

 圧倒的なカネの前には、丹念にこしらえたムードなんて弱弱しいものです。気持ちよりお金をとるような彼氏/彼女なら、いっそのこと諦めちゃいましょう。


A ruthless manager drains difficult patience.
冷酷な監督は困難な忍耐力を排出させる。

 先程の"tender direction"をする人物とは対照的ですね。演者に厳しくすることが良い作品を作るための秘訣だと思っているのかもしれません。演者はただ忍耐あるのみ。かわいそうです。


Nonstop halls rush unwritten energy.
止まらない広間が成文化されていないエネルギーを急がせる。

 止まらない広間…。なんとなく脳内に湧き上がってきたのは、終わらない廊下(endless hallway)でした。
 成文化されていないエネルギーっていうのはワクワクしますね。この世にはまだ科学的に実証されていないエネルギーがあるんじゃないかと思わせてくれます。


The black statement treats elite psychology.
黒い声明はエリート心理を論じる。

 声明といっても黒いんですから、犯行声明でしょうね。読んだ感じからすると、テロ組織が官僚制に拘泥する役人たちを批判しているようにもとれますね。


Lush camera affects juicy software.
青々しいカメラが汁気の多いソフトウェアに影響を与える。

 ソフトウェアに汁気があっちゃまずいんじゃ…。カメラが青々しいと形容されているのもあって、なんだか無機質であるはずの存在に、妙な生命みを感じてしまいます。


Earsplitting arguments reveal pricey skills.
耳をつんざくような議論は高価な技術を明らかにする。

 喧々諤々。さすがにこれはうるさいな、と思いはじめた途端、急に静まり返った会議室。どうやら新技術を生み出すヒントを得たようです。高価な技術って何でしょうね。ただ単に予算を食っているプロジェクトを指しているのかもしれないですが。


The chief argument hurries precious teachings.
主な議論は貴重な教えを急かす。

 「教え」と訳しましたが、"teaching"を"lecture"みたいなものと考えると分かりやすいかも知れません。カリキュラムに余裕がなければできない「教え」もあるんでしょうね。先生の何気ない授業中の雑談が、後になって振り返ってみると、自分の人生に大きな影響を与えていたとか。


Vigorous criticism longs for glamorous departure.
活発な批評は魅惑的な背反を切望する。

 "departure"を調べてみると、「出発」の他に「離脱」みたいなニュアンスもあるらしいです。
 既存の秩序体系から逸脱したい批評家たちの表情が浮かぶようです。


A heavenly accident helps the devilish editor.
神々しい事故は悪魔のような編集者を助ける。

 "heavenly"と"devilish"という対照的な語が同一文に出現するという奇跡。
 記事のネタがなくて困っていたら事故が起きた。「ラッキー」と不謹慎にも喜ぶ編集者は悪魔のごとし、といったところでしょうか。「神々しい」「天国のような」というくらいですから、"accident"といいながらも、結果的には良い方向に転んだのかも。パンを咥えて走っていたら、曲がり角で出会い頭にイケメンと衝突した、みたいな。それでなんで悪魔のような編集者が助けられるのかは分かりませんが。


False drawing saves tremendous supermarkets.
偽りのデッサンが巨大なスーパーマーケットを救う。

 なんだかワクワクします。建築基準法に反していたスーパーが、建物の図面を偽装することで建て替えの難を逃れた、みたいな?←それ実質的には救われてないんじゃない?


A crazy diamond commences a deserted database.
狂ったダイアモンドが寂れたデータベースを始める。

 "crazy diamond"、ロックバンドにいそうだなと思いましたが、ピンク・フロイドの楽曲の邦題(「クレイジー・ダイアモンド」)になっているらしいですね。


Jumpy hearts transform the gleaming depth.
神経質な心は輝く深みを変化させる。

 スキューバダイビング中、太陽光が底にまで届くような澄んだ海の中で、突如として不安に駆られたのかもしれません。「あれ、これ酸素足りてたっけ」みたいな。それはないか。でも、神経質なせいで美しいものを素直に受け止められないっていうことはありますよね。裏があるんじゃないかと疑ったり、些細なことが気になったり。


The secretive aspect murmurs inconclusive recommendations.
秘密主義の視点は決定的でない勧告を囁く。

 murmur。私の好きな単語です。
 先程の文にも出てきた"inconclusive"ですが、「決定的な証拠」みたいな文脈で使われるらしいです。自分の推理を秘密にしたがる探偵のせいで、場にいる登場人物たちは自分が犯人だと疑われていることに気づけない、みたいな?「決定的でない勧告」だから、「あなたが犯人かもしれない、たぶん」みたいな発言をする頼りない探偵なのかも。


Pumped meals age macho opportunities.
ポンプで吸い出された食事がマッチョな機会を熟成させる

 ハードな筋トレのあとには、プロテインを豆乳で割って飲みましょう。ポンプで(?)
 ageが動詞として用いられるとき、「発酵する」みたいな意味になるんですね。熟成された(一風変わった、癖のある)マッチョになりたいのであれば、ポンプで食事をするべきなんでしょうか。



◆課題

 ここまで、薬にも毒にもならないランダム文を見てきたわけですが、どうでしたか?文生成そのものよりも、解釈のほうが楽しいと述べましたが、私のしょうもないコメントを読んでなんとなく分かって頂けていれば幸甚です。皆さんも一見意味の通らなさそうな文を、自分なりに大胆に解釈してみてはいかがでしょうか。普通に生きていれば得られないような視点を獲得することができるかもしれません。
 今回紹介した「優美な死骸」もどきですが、やってみていくらか課題を見つけたので、それについて書いて終わりにしたいと思います。


訳語選びにおける恣意性
 お分かりの通り、「優美な死骸」を行う上で、「互いに何を書
いたのか分からない」という条件が非常に重要になります。自分のアウトプットが、他の人が書いた内容に影響されてしまえば、必然的に文章に意味上のつながりができてしまいますからね。解釈のフェーズに至るまでは、なるべく無作為に文章を作りたいわけです。
 ただ今回は、英語を日本語に訳すという段階で、生成者である私の作為が入り込んでしまったように思えます。多くの英単語には、複数個の和訳が存在しています。その和訳の中からどれを選ぶのか決める際に、私の「こういう文だったらいいな」という雑念が介入してしまった側面が否めません。理性の介入を極力排するのがシュルレアリスムにおける制作手法ですから、あまり「優美な死骸」を誠実に改変できたとは言えないですね。解決案としては、「必ず特定の辞書の最初の訳語を採用する」とのような規則を決める、というのが良いでしょう。強引にルールで縛ってしまえば、製作者の意図が入り込まなくて済みそうです。
 あと、生成される単語はみな原形ですので、名詞は複数形にするかどうか、動詞はどんな前置詞を伴わせるべきか迷いました。可算名詞か不可算名詞かで微妙に意味が変わったりしますので、そこら辺も規則を整える必要がありそうですね。

文構造
 (課題といえるか微妙ですが…) 
 今回は、「形容詞→名詞→動詞→形容詞→名詞」という構造を採用しましたが、副詞とかの出番がないのがもったいない気がしますね。私が考案した文構造ではないので、これにケチをつけるのは憚られますが、もしもっと良いのがあったら教えてください。

ちょっと大変である
 英語を使ったせいかもしれませんが、生成→記録→生成…→和訳の手間がかかってちょっと面倒でした。プログラミングとかできたら、ボタンを押すだけで「優美な死骸」ができるアプリとかを開発できたのかもしれませんが…まあ手動でやるのも趣があって悪くはないです。暇で暇で仕方がない時にやってみてください。


以上です。
ここまでお読みいただき、どうもありがとうございました!!


ヘッダー画像;
UnsplashScott Grahamが撮影した写真

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