四季折々の俳句 14
「 グラタン 」
小鳥来てうるさき庭のうれしさよ
大地より幾千万の秋桜
胸ちゆうを吹きぬけてゆく風は秋
落ちるたびこの世しづまる桐一葉
晴れぞらを絵にしてゐたり秋の画家
たくさんの栗もらひけり毬のまま
喜びを摘んでゐるなりレモンの木
かがみ見てつまらなさうに秋の顔
こんな日はかけ蕎麦にせん秋の雨
☆
食卓に秋がならんでゐたりけり
グラタンの中にも秋がごろごろと
秋爽のはなししながらパンちぎる
胡麻といふ魔法ふりかけサラダ鉢
かぼちや煮の味の秘訣は大雑把
水ほどに柔らかく煮る小豆かな
そのままでそのままの味新豆腐
恋をしたはなしは新酒くみながら
行くひとは斜めに秋の嵐かな
☆
雲行きてどこへもゆかぬ案山子かな
未来あり泣き虫の子にどんぐりに
手渡せぬ恋がいちりんコスモス畑
梨といふひかりの玉を摘みにけり
鯊釣れてうなばら今日も平和かな
食べ終へて瓦礫のやうに胡桃の殻
一人酌む一人の味の新酒かな
ともさるる灯りも濡れて霧の街
歳月は銀杏となりて散りにけり