四季折々の俳句 13
「 押しの一手 」
引きだしに貝がらしまふ今朝の秋
日がさしてにはかに白し稲の花
鬼灯をあかるく摘んでゐたりけり
見はるかすあかねびかりの秋の海
ひとつづつひらくおもひで遠花火
それぞれの心にひらく花火かな
愛といふひと言の身にしみにけり
焼きりんご鼻先立ててくる子らよ
一輪を手にあゆむなりコスモス畑
秋風とつぶやきながら吹かれけり
☆
呼ぶ声がきこえてこぬか大花野
大仕事まかされて立つ案山子かな
声あげてはげましあへり渡り鳥
天上のことはわからずいなびかり
うねりゆく雲から雲へいなびかり
柿食うてわが身のうちは大宇宙
頬杖をつくひとに秋深みけり
半生が揺れてをりけりすすき原
秋の虹ほどに人生うつくしき
背伸びして短冊つるす七夕竹
☆
にはとりがひと声あげて秋高し
かまきりのつんと立つなり風の中
えいえんをかんじてゐたり大花野
新米を押しの一手で研ぎにけり
ぜいたくに炊けて一人のきのこ飯
焼くけむり贅沢にあげ秋刀魚かな
それぞれの人生を干す今年酒
いまだ見ぬ誰かをおもふ月見かな
月さして海は太古のあかるさよ
しんじつの願ひは叶ふ流れ星