本を買い損ねた話
目当ての本を買いに行った本屋が既に閉まっていた。
閉店ではない。昨今の状況を省みての短縮営業というやつである。
連勤最終日の残業を乗り越えてわざわざ京都駅の反対側まで来たというのにこの仕打ちか。心底がっかりだ。わくわくした気持ちが一気に冷めてしまった。
しかし閉まっているものはしょうがない。
よく確認しなかったわたしも悪い。
薄暗いエントランスではためく『短縮営業のお知らせ』に幾ばくかの気恥ずかしさを感じながら、暗くなった店を背にしてわたしは帰路につくことにした。
しかしこのままではこの本を買いたいという気持ちに収まりがつかない。
最寄り駅のモールにある本屋でなにか買って帰ろうと思い立ち、電車に乗る。
本命はなくとも何かしら面白そうな本の一冊や二冊見つかるだろうという魂胆である。
先ほどの二の舞にはなるまいと電車に乗っている間に営業時間を検索する。
ページ上では通常営業となっている。
いけるぞ。
先ほどのわくわくがじわじわと蘇ってくる。
どんな本を買おうか。SFか、ミステリか、はたまた科学誌か。箸挟みに漫画もいいな……などと思いを馳せていると、ふいにバナー広告のような『お知らせ・営業時間について』の文字が目に飛び込んできた。
まさかと思いページを開く。
閉まっている。
なんならさっきの店より早い。
二度も裏切られた気分だ。
今日は新しい本は買うなということか。
もう帰路に寄れる本屋は無い。
今夜は諦めて、酒でも飲みながら見ないふりをしていた積ん読を消費することに決めた。酩酊しながら読む本も一興だ。さて、何を読もうか。