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プリウスのデザインから考える、デザインの評価基準 「スタイル」と「社会性」のバランスとは?


1. 高齢者に愛されるプリウスと、その変化

シンプルかつスリークで未来感もある現行型プリウスのデザイン

先日、ホームセンターの駐車場で現行型プリウスを見かけました。ふと目を引いたのは、そのシートにレースカバーが掛けられていたことです。どんな方が乗っているのか気になっていると、買い物を終えた高齢のご夫婦が戻ってきました。  

この光景を見て改めて思ったのは、日本市場においてプリウスが高齢者に支持されているという事実です。おそらくこのご夫婦も、過去にプリウスを乗り継いできたのではないでしょうか。  

かつてはカローラがその役割を担っていましたが、3代目プリウス(2009年発売)あたりから、その立場が徐々にプリウスへと移行したように感じます。燃費性能やハイブリッド技術の信頼性、そしてトヨタブランドの安心感が、高齢者ユーザーにとっての「買う理由」になったのでしょう。  

長年乗り慣れた車をそのまま買い替える人が多いのも、日本市場の特徴です。特にトヨタ車はディーラーとの関係性が強く、「プリウスを10年乗ったから、次もプリウスを買おう」となるケースが一般的です。販売店の担当者も当然のように現行型プリウスをすすめるでしょう。  


しかし、ここで一つ疑問が生まれます。現在のプリウスのデザインは、果たしてそのユーザー層にとって最適なのでしょうか?  


2. 現行プリウスのデザインは誰のため?

ボンネットからほぼ一直線にルーフのピーク(頂点)まで繋がるシルエット


現行型プリウスのデザインは2023年の発売当時、カージャーナリストなどから高く評価されていました。特徴的なくさび型のシルエットやシャープなプロポーションは、確かに一面的には「デザインの完成度が高い」と言えるでしょう。  

しかし、実際に使用するユーザーの視点で見ると次の2点が懸念点です。
 

①車高が低くなり、シート位置も下がった
旧型から車高が40mmも低くなっています。さらにサイドシルエットを見るとルーフラインのピーク(頂点)がリアドアの真ん中付近にあり、運転席はさらに低い印象があります。これにより高齢者にとっては乗り降りがしづらくなったはずで、腰を深く落とす必要があり、身体への負担が増えます。
 

②フロントガラスの角度が寝かされたことで、Aピラーの死角が大きくなった
そもそもプリウスは歴代モデル全てAピラーが寝ています。Aピラーの角度と死角は相関関係にあり、角度が寝るほど死角が大きくなります。新型の角度は歴代以上に寝ており、その分交差点などでの視認性が明らかに低下します。運転支援が充実しているとはいえ、運転に不安を感じるユーザーがいると思います。  


これらの点を考えると、現行プリウスのデザインは「見た目の美しさ」を優先しすぎており、従来のプリウスユーザーにとって使いやすい車ではなくなっているのではないでしょうか。  

このデザインは、どちらかというとスポーツカーのように「スタイル」に特化したものではないか、と感じます。しかしプリウスは、そもそもスポーツカーではありません。プリウスを購入するユーザーの大半が、走行性能よりも「実用性」「燃費」「安全性」などを重視しているはずです。  

にもかかわらず、なぜこのようなデザインになったのか?それは、おそらく「トヨタとしてのブランディング戦略」が背景にあるのではないかと考えます。メーカー側が意図的にスポーティなイメージを強調し、新たな「プリウスらしさ」を確立しようとしたのかもしれません。  


ただ、その結果として、実際のユーザーにとっての「使いやすさ」が犠牲になっているのであれば、それは本当に良いデザインと言えるのでしょうか?  



3. デザインの評価軸 「スタイル」と「社会性」

Aピラーの傾きがよく分かるインテリアからの写真


クルマのデザインを評価する際には、大きく分けて2つの軸があると考えます。

① スタイル(造形の美しさ、新しさ)

これは、クルマの見た目のデザインそのものを評価する視点です。
カーデザインはプロポーション→サーフェース→ディテールの順で見ていくと理解が深まります。(詳細は別のブログで解説しようと思います)

プロポーション:くさび型のシルエットが、他のクルマとは似ていない唯一無二の個性を出している。  
サーフェース:トヨタ車によくある2つのボリュームの立体構成だが、繋ぎがスムーズなためリフレクションの動きが高い質感を与えている。  
ディテール:トヨタのデザインは時に造形過多になりがちだが、このクルマはディテール含めて全体的にシンプルで明快。

→ この観点では、現行型プリウスのデザインは100点と言えるでしょう。  


② 社会性(ユーザーにとっての使いやすさ)  

もう一つの軸が「社会性」ですが、ここではクルマを使う人にとっての「実際の利便性」を考えています。

・日本市場では高齢者ユーザーが多い  
・長年プリウスを愛用してきた人が、新型も選ぶケースが多い  
・しかし、現行型は旧型と比べて明らかに使いにくくなっている  

  乗降性の悪化 や視認性の低下は、少なくとも日本国内のユーザーを考えたようには思えない。  

この観点では、日本市場において0点と言わざるを得ません。  


例えば、ポルシェ911は「スポーツカー」として100点ですが、もしファミリーカーとして評価するなら0点です。同じように、プリウスのデザインをどう評価するかは、「何を目的としたデザインなのか?」によって変わります。  

最終的に、本当に良いデザインとは、「スタイル」と「社会性」のバランスが取れているものではないでしょうか。  


最後に少しフォローをすると、プリウスはグローバルで販売されており、各市場でユーザー層が違うはずです。なので、重視する特定市場向けに「スタイル重視」という戦略も正しいのかもしれません。しかし、日本市場においてはプリウスのデザインは「スタイル」に特化した結果、従来のユーザー層にとって使いづらいものになってしまったと思っています。

確かに、現行型プリウスの運転支援は大変素晴らしいものです。
しかし完全自動運転にならない限り、視界が良いことに越したことはないのです。

では、次の世代のプリウスはどうなるのか?今後のカーデザインの方向性にも注目していきたいところです。  



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