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ブランド価値の重要度。レッドブルのプロモーション活動と、日本のものつくり転換期

トヨタ自動車の、ある新型EVのプラットフォーム(中の構造やモーター、バッテリーなどの総称)が、中国メーカーのBYD製になるとの情報がある。

この話を聞いて皆さんどう思うであろうか?
「とうとうこんな日が来たか・・」
「日本のものつくりは終わった」
というネガティブな方も多いのではないか?

今の中国メーカーのEV開発力は凄まじく、価格競争ではとても太刀打ちできない状況にある。
アメリカが急いで中国製EVに対して関税を大幅に引き上げるなど、今まで自動車産業を重視していた国々は戦々恐々となっている。

しかし、そんな中国メーカーには無くて、日本や欧米の自動車メーカーにあるもの
それは「ブランド力」に他ならない。
日本企業の、更なるブランド力の向上を願い、この記事を書いている。

レッドブルのプロモーション

「レッドブル」という飲料メーカーがある。
飲んだ事ない方も、名前は知っているのではないだろうか?
今はコンビニで普通に売っているし、CMも流れている。
このレッドブル、実は「タイのローカル飲料」だった事をご存知の方は
少ないかもしれない。

元々、タイのみで販売されていたクラティンデーン
(赤い雄牛という意味、つまりRedBull)という飲料を世界的に広げたのは、
オーストリアの実業家、ディートリヒ・マテシッツである。
当時から日本でもリポビタンDなど、栄養補給ドリンクはあったが
世界的にはそのカテゴリーはメジャーではなかった。
それを「エナジードリンク」として一大マーケットを開拓した張本人だ。

この方は2022年に亡くなっているのだが、F1好きな方はお馴染みの人である。
レッドブルは、F1チームを持っている。
スポンサーではなく、チームを持っているのだ。
今では常勝軍団として、トップチームに君臨している。
メルセデスなど、超一流自動車メーカーのチームでも太刀打ちできない。
しかも、姉妹チームも持っている。
参戦10チーム中、2チームがレッドブルである。
ただの飲料メーカーなのに。

それ以外でも、私たちがレッドブルに触れる事は実に多い。
特にエクストリーム系スポーツのスポンサーや、
イベントではお馴染みのブランドである。

一方で、レッドブルの商品ラインナップを見るとごくわずかだ。
日本では基本的に1種類で、5つのフレーバーが販売されている。
今時、頑固なラーメン屋でももっとあるだろう。

つまり、このレッドブルは「新商品の開発」を出来るだけ少なくし、
「プロモーション活動」に多額の資金を投入しているのである。

私が今回言いたのはここだ。
プロモーション活動とは、ブランディングからつながる「ブランド価値の向上」を主目的で行われるが、
レッドブルはこれに価値を見出した結果、全世界で知名度を上げることに成功した。
そのプロモーション活動の最たるものが、前述のF1活動である。

日本企業の現状

日本の企業は、ものつくり信仰がある。
「良いものを作れば売れる」という話だ。
でも現在は、良いものを作るのは大前提だけど、
それだけでは売れないというのは共通認識としてある。

しかし、意識としてはまだ「ものつくり」の方の比重が高い。
それに日本企業の場合「良いもの」=「新商品」という意識が強いように感じる。
また「商品」=「自社開発」という固定概念も強い。

飲料メーカーは、例えばビールなどは「季節ごと」に新商品が出る。
家電メーカーは、毎年モデルチェンジするのが通例だ。
自動車メーカーは、2、3年ごとにマイナーチェンジ、5年前後でフルモデルチェンジする。

これらを全て自社開発とすると、どの分野であれ莫大な予算がかかる。
私がいた自動車メーカーであると、少なくとも1000億以上の投資だ。
今はADASなど先進技術の開発もあるので、その規模は計り知れない。

しかし、例えば「ポルシェ」はどうだろう。
誰もが知っている、絶大なブランド力があるメーカーだ。
ここの看板商品である「911」などのスポーツカーは自社開発だが、
収入源である「カイエン」「マカン」などのSUVは、
グループメーカーのプラットフォームである。
しかし、絶対的なブランド力があるので、そんなことは誰も気にしない。
プラットフォームを共用するのも「ポルシェの判断」なので、
主体性は担保されていると言っていいのだ。

冒頭で話したトヨタの新型EVの件も、それは「トヨタの判断」である。
トヨタのものつくりの基準に合致したからそう判断したのだ。
トヨタにブランド力があると、そう消費者に思わせられる。
つまりここでは、自社開発よりブランドで勝負すると言うことだ。

ブランド力を上げるには?

ブランド力というのは本当に絶大なものだ。
若い頃、ルイヴィトンのモノグラムキャンパスがPVC(合成皮革)と知った時、
何かの間違いだと思ったものだ(笑)
コストだけ見れば、普通のブランドが5万円で売るカバンを、
ルイヴィトンなら50万円でも売れる。
そのようなブランド力を身につけるのは、地道なプロモーション活動を行うしかない。

日本企業はもっとブランド力という価値に真剣に取り組む必要があると思うし、
それが出来る強固なブランドの下地を、すでに持っていると感じるのだ。

そのためには、何がなんでも自社開発という概念を捨てて
もっとしたたかに」「もっと効率的に
ものつくりを行うことが、必要なのではないか?

そしてブランディングとプロモーション活動を、
ものつくりと同列かそれ以上の重要案件として考えてはどうだろうか。
投資額はもちろん、それに携わる人数も、
開発と同じ規模である必要があるかもしれない。
今現在は開発の10分の1にも満たない企業も多いのではないか?

昨日のF1シンガポールGPで、レッドブル姉妹チームの角田選手が孤軍奮闘している姿を見てそう感じた。

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