アイとダイダイ[ショートショート]
あの頃の僕らの門限は日暮れだった。
太陽を追いかけ、月が顔を出す。
あの頃、ませていた君は僕に良く引っ付いてきて
慣れない僕は照れ隠しで君を傷つけてしまったかもしれない。
周囲には明るく振る舞うくせに、君の前だと何故だがその能天気さも陰りを見せる。
でも、そんな関係性すらも嫌いじゃなかった。
これが永遠に続くものだと、あの頃の僕は疑ってもいなかった。
まさか君が転校してしまうなんて。
今の僕には門限なんてない。
夜更かしもするし、深夜の散歩も厭わない。
あの頃とは何もかもが違う。
生きる時間も君との距離も。
この時間の散歩は少し感傷を呼び起こす。
誰かの声を聴きたくなる。
「今日も月は綺麗ですね」
4:30
周りに人影はなく、電波で繋がった君と
二人だけの世界。
月を追いかけ、太陽が顔を出す。
決して、追いつく事のない関係性。
その二つが出会う事はない。
でも確かに今、僕の両手には夜と朝があって。
限りなく遠い二つの、
ちょうど真ん中に僕はいる。
わずか、1時間にも満たないこの時間を大切にしよう。
まだ皆の目に触れない太陽の
少し格好の悪い、後悔の時間。
月は知らぬ顔で去っていくけど、それで良いんだと思うんだ。
今、僕の目に映るこの色が
複雑なこの気持ちの答えなのだろう。